通院治療を必要とした人は44.5%、治療が終了した人は51.1%

三菱UFJリサーチ&コンサルティング、女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室長の矢島洋子さん
三菱UFJリサーチ&コンサルティング、女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室長の矢島洋子さん

 同じく女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室長の矢島洋子さんは言う。

 「今回の調査は、がん罹患後も仕事を続けられた人を対象にしたものです」

 「がんと言うと、長期にわたる治療により、仕事に支障が出るのではないかという印象があるかもしれませんが、実態はそうしたケースばかりとは言えないようです」

 89.5%の人が手術を経験しているが、通院治療を必要とする人は44.5%にとどまっている。通院治療した人のうち、抗がん剤治療をした人は52.4%だった

 現在の治療状況を見ると51.1%が「治療が終了した」と答えている。また、治療終了までの期間は「1年未満」と答えた人が47.0%だった。入院治療した人の60.3%が、入院回数が「1回」だったと答え、最初の入院・最長の入院とも「1週間以上~1カ月未満」が最も高く、約6割を占めた。

治療のための労働時間抑制がずっと続くとは限らない

 「罹患後1年間は、治療などのために週当たりの労働時間が『40時間未満』になる人が41.0%に増えますが、直近1年間の労働時間を聞いたところ、『40時間未満』と答えた人は22.8%に減っています。労働時間を抑制する場合であっても、その後、フルタイムに戻れる人はかなりいるようです」(矢島さん)

 では、がんに罹患したことにより、仕事は変わったのでしょうか。「軽微な業務への転換や作業の制限など、仕事内容の変更」があった人は18.5%、「所属部署の変更など、配置の変更」があった人は9.6%、「勤務時間の短縮」があった人は18.2%と、何らかの変化があった人は約1~2割にとどまっている。その変更状況と本人の希望が合致していたかどうかについては、「軽微な業務への転換や作業の制限」「勤務時間の短縮」については「自分の希望通りだった」と答える人が多い半面、「所属部署の変更など、配置の変更」は「自分の希望以外だった」と答える人が28.7%と約3割に達した。

 がん罹患による肉体的な変化が仕事に及ぼす影響は、がんの種別によって異なる。例えば、肺がん罹患後は全身を使った動きが難しい。乳がんは手のしびれによりパソコン業務が負担になる。子宮がんは下肢のむくみが生じるなどの影響があるそうだ。しかし、矢島さんが「がんを理由に、自分の本意ではない部署に異動させられるケースが少なくないという事実が浮かび上がりました」と指摘するように、こうした点に職場の課題がありそうだ。

 がんに罹ってからも、同じ職場で仕事を継続した人に「継続できた理由」を聞いたところ、理由の第1位は「職場の上司の理解・協力があったため」(46.4%)、第2位は「職場の同僚の理解・協力があったため」(32.7%)となり、仕事の継続には上司や同僚の理解・協力が大切であることが分かった。

 がん罹患後に「退職し、転職・再就職して現在も働いている」と答えた人は14.0%だった。

 「今回の調査では、がん罹患後に転職した人の43.8%は正社員から非正社員になっていることが分かっています。罹患後の再就職は厳しく、経済的な影響も無視できません。罹患の告知を受けたショックで即仕事を辞めてしまう人も多いようですが、離職には慎重になったほうがよいのではないでしょうか」(矢島さん)