子どもがもりもり食べてくれない、好き嫌いが多くて困っている、と悩んでいるお母さん。どうか、「この子が食べないのは私のせい」と自分を責めないで。
偏食のない子なんかいません。自分のことをちょっと振り返ってみてください。お母さんだって嫌いなものはあったはずです。私にも、どうしても嫌いなものがありました。それは缶詰の白いアスパラガス。父親が好きだったのですが、あの缶を開けた瞬間に漂ってくる匂いがもうダメ。むにゅむにゅした食感も嫌いでした。
また、私は関西の生まれなので、活きのいい魚はごちそうとして見慣れたものでしたが、東京からきた従妹は、まだぴくぴくと動いている活造りを見て真っ青になり、一口も箸をつけられませんでした。
「こんなにおいしいものが食べられないなんて」と驚きましたが、活造りに限らず、食べられる人にとっては、食べられない人の気持ちはわからないものです。
一卵性の双子だって好みは違う!
私が双子の息子を産んだ頃は、今ほどではありませんが核家族化が進んでいて、親から子へ、子育てや料理を教え伝える機会はすでになくなりつつあったと思います。自分が子どもを産むまで、身近に赤ちゃんを見ることも触ることもありませんでした。
赤ちゃんなんて、まるで宇宙人というくらい理解できない存在、しかもそれが双子なのですから、どう育てたらいいのかわからなくて、戸惑うことばかりでした。一番びっくりしたのは、双子だから姿形はほとんど同じなのに、性格や動作、好きな食べ物も、食べる量もまったく違うということ。これには衝撃を受けました。
次なる衝撃は、得意なはずの食の分野で、完全なる敗北を喫してしまったこと。
フランスで修業し、当時プロの料理人として仕事をしていた私は、子どもの食についてはまあなんとかなるだろうと高をくくっていました。ところが、手をかけてつくった離乳食を、一人は喜んで食べ、一人は吐き出す。本を見て、その通りにつくったのになぜ? 「私の食べさせ方が悪かったのかな?」「一口が大きすぎたのかな?」など、いろいろと試行錯誤をしましたが、やっぱりダメでした。これはとてもショックでした。
でも、私にとって幸運だったのは、敵が正反対のタイプの双子だったことです。
もし相手が一人で、その子が何を食べても吐き出す子だったら、「私がいけないんだ」と自分を責め続けたと思います。逆に、何を与えても喜んで食べる子だったら、食べない子をもったお母さんの気持ちを理解することはできなかったかもしれません。
2タイプの子どもがいたおかげで、「好き嫌いは、お母さんのせいじゃない。好き嫌いは、子どもの個性のひとつなのだ」と冷静に捉えることができたのです。
個性なら仕方がありません。「私のせいではない」と知っただけで、すっと肩の荷が下りました。