2013年4月から大阪市立敷津小学校の校長を務める山口照美さんが、この3月で小学校を卒業する6年生に贈る、はなむけの言葉です。

 3月17日。暖かな日差しに包まれ、6年生が卒業した。彼らにもう一度、贈りたい言葉がある。それは、キャリア教育で出会ったある女性の言葉だ。

 「自分を活かせる場所が必ずある。そこに行きなさい」

 言葉だけ聞くと、単純だ。しかし、彼女だからこそ言える、重みがあった。

 彼女に出会ったのは、あるパーティーだった。すでに校長だった私に、NHKのディレクターです、と話しかけてくれた。そしてサラッと会話の中で、彼女は言った。

 「私、義手なんで」

 その左手は、よく見ると光沢があった。言われるまで、気づかなかった。

子どもの人生を支える、キャリア教育

 キャリア教育を企画するとき、コンテンツビジネスに興味がある児童がいて、彼女のことを思い出した。私の取材に来たところを、逆取材する。障がいのことも、隠さず堂々と話してくれる。

 「キャリア教育の講師を、お願いできますか……? できれば、手のことも話してほしいんです」

 喜んで、じゃあ、どんな授業にしましょうか? と、さすがのディレクターらしいスピード感で話が進んだ。大北晶子さん、NHK大阪のチーフディレクターだ。1歳の時、病気で左手を失った。そんな不自由は感じさせないバイタリティーで、取材や番組作りをこなす日々だ。

大人にするように、大北さんは名刺を子ども達に配って回った。照れながら受け取る6年生。社会人になった自分を、少しはイメージできただろうか?
大人にするように、大北さんは名刺を子ども達に配って回った。照れながら受け取る6年生。社会人になった自分を、少しはイメージできただろうか?

 授業の構成は一緒に考えた。どんなゲストティーチャーにも、子ども時代の話をしてもらう。子ども達の中には、つらい環境や経験を背負っている子がいる。外国からいきなり言葉のわからない国へ来て、戸惑っている子もいる。そんな彼らを勇気づけるには、どうすれば伝わるだろうか。議論しながら、パワーポイントで資料を作った。

 授業の日。子ども達には、テレビのディレクターとだけ紹介した。まず、大北さんが子ども達に呼びかける。

 「私は君たちと同じ小学生だったころ、人と決定的に違うことがありました。学校で、ただ一人だけ。何かわかりますか?」

 しばらくざわめいた後、一人の児童がはっと気づいた。

 「手が違う」

 「そう、私は義手なの」と左手を出して、大北さんは全員の児童と握手をした。おそるおそる触る子、「うわっ!」と驚きを口にしてしまった子。出会いは鮮烈だった。大北さんは、右手だけで鉄棒にしがみつく、子ども時代の写真を見せた。そして、雑巾も絞れない、水泳もできない、劣等感だらけだった自分を率直に語った。

 できないことは仕方ない。できることを、精一杯やればいい。そう思った大北さんは、勉強をがんばって大学へ行き、障がいを率直に語って就職活動をしてテレビ局へ入る。合間に入れたインタビューの編集ワークでは、子ども達の感性を褒めつつ、プロの技を見せてくれた。一番伝えたい言葉を、長いインタビューから選び、つなぐ。何気なく見ているテレビ映像の仕掛けに、子ども達は驚いた。素材を集め、伝えたいメッセージを絞り、編集する。そこに、番組制作者の想いが乗る。

 これからの時代を生きる彼らに必須の、メディアリテラシーの授業にもなった。