メディアで「少年が悪い、悪い」と言われる理由

 はて、これは日本の特徴とみてよいのでしょうか。比較の対象をもっと広げてみましょう。横軸に少年の犯罪率、縦軸に「少年/成人」の倍率をとった座標上に、57の国を配置したグラフを作ってみました。図1をご覧ください。

 日本は、左上の桁外れの位置にあります。少年の犯罪率は低いのですが、成人の犯罪率に対する倍率が際立って高い社会です。「少年>成人」の国、つまり縦軸の倍率が1.0を超えるのは日本とオーストラリアですが、1.45倍にもなるのは、紛れもなく日本だけです。わが国は、犯罪が少年に集中する度合いが非常に高い社会であるともいえます。

 繰り返しますが、日本の少年の犯罪率は高くありません。にもかかわらず、メディアで「少年が悪い、悪い」と言われるのは、大人と比べた場合の犯罪率の高さが問題視されているためと思われます。大人は文字通り「大人」しいのに、少年がワルをしでかす、けしからん、という論法です。

子どもばかりを厳しく取り締まる社会

 しかし、そういう見方をとらない論者がいます。私の恩師の松本良夫先生(東京学芸大学名誉教授)です。松本先生は、1999年に「わが国の犯罪事情の特異性」という論文を公表されています(『犯罪社会学研究』第24号)。そこでは、少年の犯罪率が高いことではなく、成人の犯罪率が異常に低いことに関心が向けられています。

 少年と成人が同じ社会状況の下で暮らしているのに、両者の犯罪率が大きく異なるのはどういうことか。わが国では、子どもと大人が本当に社会生活を共有しているのか。子どもと大人の間に「断絶」ができているのではないか。大人が自分達のことは棚上げして、子どもばかりを厳しく取り締まっているから、少年犯罪の異常多、成人犯罪の異常少という、国際的に見て特異な構造ができているのではないか。松本先生の言葉を借りると、少年の「犯罪化」、成人の「非犯罪化」の進行です。

 犯罪の原因は、逸脱主体(ワルをする当人)に関わるものだけに限られません。ワルを取り締まり、それに「犯罪」というラベルを貼る統制機関(警察、世論…)の姿勢も、犯罪の創出に寄与しています。私服警備員を多く配置するほど、万引き犯が多く捕まるというのが好例です。ちなみに少年犯罪の大半は、遊びやスリル目当ての万引きです。

 この伝で言うと、大人の世界では、なれ合いや癒着などの形で不正が隠蔽されているのに対し、少年については、ささいなワルも厳しく取り締まられている。こういう事態が想起されます。「子どもがおかしい」「道徳教育の強化を!」という道徳起業家の声も、それを後押ししているでしょう。

 わが国は、このような「病理的」な状態になっているのではないか、という懸念が持たれます。松本先生は別の論稿において、「わが国の社会病理は、少年犯罪『多』の病理というより、成人犯罪『少』国の病理といえる」と指摘されています(「少年犯罪ばかりがなぜ目立つ」『望星』2001年4月号)。なるほどと思います。