父親が育児に関わる感覚がない時代の、母親にあった孤独感
豪田トモ監督(以後、敬称略) 僕とおさむさんは二人とも40代前半の父親ですが、池川先生が子育てしていた時代とは全然違うでしょうね。
池川明先生(以後、敬称略) そうですね。私が子育てしていたころは、父親が子育てをするなんていうことはなかったですね。妻は出産のとき、私が勤務していた大学病院に入院したのですが、入院患者さんを回診するたびに妻のところに顔を出しているのに、「ちっとも来てくれない」と言われましたよ(笑)。
当時は朝早くに家を出て、深夜に帰宅するというのが当たり前でした。医者というのは、みんなそういうサイクルで生活していたので、今の時代から考えればまるで“母子家庭”のような感じだったのかもしれません。
本当に冗談のような話だけれども、出勤するときにわが子に「おじちゃん、また来てね」って送り出されるといった話は私の先輩世代では本当にあったんです。そういう意味では、父親が育児に関わるといった感覚はなかったですね。
そう考えると、当時のお母さんというのは、かなり孤独感があったのかもしれないですね。私の家庭だけではなく、世の中全体がみんなそうだったと思うんですよ。サラリーマンであれば“モーレツ社員”という言葉があったように、しゃかりきになってよく働いたし、仕事上の付き合いもあって夜中までということも普通でした。
そういうご時世でしたから、当時はかなり多くの母親がつらい思いを抱えて子育てをしていて、その思いが子どもに乗り移ってしまっていたのではないかっていう気もします。
子どもと長く過ごすと、照れがなくなる
鈴木おさむさん(以後、敬称略) 僕はここ最近、ずっと子どもと一緒にいるじゃないですか。子どもが0歳の時期に長い時間、一緒にいられてよかったなと思ったことがあるんです。いろんなお父さんを見ていると、「いないいないばあ!」ってやるじゃないですか。
これって、お母さんの場合はパワー全開でやるんですよね。ところが、お父さんがやると、絶対、どこかに照れがあるんですね、やっぱり(笑)。お父さんというのは、お母さんと比べると、子どもとの距離がどうしてもあるわけです。
でも、僕はずっと子どもと一緒に過ごしているので、照れがないんですよね。お母さん並みにいないいないばあをウワーッて全力でできる。子どもと一緒に長い時間過ごすことができないお父さんは、例えば公園でそれができるかというとできない。他の人の目が気になってしまって、恥ずかしいから。
それが、育休を取って、ずっとわが子と一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、それが日常になってくるので、意外と“足並みがそろう”といいますか、お母さん並みに全力投球できるようになった。かなり細かい話なんですけど(笑)、よかったなあと思ってます。