ドキュメンタリー映画『うまれる』。「子どもは親を選んで生まれてくる」という、胎内記憶をモチーフに、4組の夫婦の物語を通して「自分達が生まれてきた意味」「家族の絆」「命の大切さ」「人とのつながり」を考えさせられるこの作品が2010年に公開されてから丸5年が経った。自主上映会を中心にシリーズ2作目となる『ずっと、いっしょ。』を含め、総視聴者数は60万人を突破している。

3月5日には映画『うまれる』の5周年を記念したイベントが東京都世田谷区の玉川区民ホールにて開催され、「命と家族」をテーマにパネルディスカッションが行われた。登場したのは、バースコーディネーターの大葉ナナコさんをナビゲーター役に、同作品の豪田トモ監督をはじめ、胎内記憶などを調査しつつ“豊かな人生の考え方”を提唱する産婦人科医・池川明さん、“父勉”中で、テレビドラマ『生まれる。』の脚本も手がけた放送作家・鈴木おさむさんの3人。同作品のモチーフとなった胎内記憶の話をはじめ、妊娠・出産や父親の育児・育休、家族や親子関係など、様々な話が飛び出した。「つらいことも、捉え方を変えると違って見える」「子どもが大きくなってから取る“第2次育休”とは?」と、ディスカッションの一部をダイジェストでお届けしてきましたが、今回が最終回です。

父親が育児に関わる感覚がない時代の、母親にあった孤独感

左から、豪田トモさん、池川明さん
左から、豪田トモさん、池川明さん

豪田トモ監督(以後、敬称略) 僕とおさむさんは二人とも40代前半の父親ですが、池川先生が子育てしていた時代とは全然違うでしょうね。

池川明先生(以後、敬称略) そうですね。私が子育てしていたころは、父親が子育てをするなんていうことはなかったですね。妻は出産のとき、私が勤務していた大学病院に入院したのですが、入院患者さんを回診するたびに妻のところに顔を出しているのに、「ちっとも来てくれない」と言われましたよ(笑)。

 当時は朝早くに家を出て、深夜に帰宅するというのが当たり前でした。医者というのは、みんなそういうサイクルで生活していたので、今の時代から考えればまるで“母子家庭”のような感じだったのかもしれません。

 本当に冗談のような話だけれども、出勤するときにわが子に「おじちゃん、また来てね」って送り出されるといった話は私の先輩世代では本当にあったんです。そういう意味では、父親が育児に関わるといった感覚はなかったですね。

 そう考えると、当時のお母さんというのは、かなり孤独感があったのかもしれないですね。私の家庭だけではなく、世の中全体がみんなそうだったと思うんですよ。サラリーマンであれば“モーレツ社員”という言葉があったように、しゃかりきになってよく働いたし、仕事上の付き合いもあって夜中までということも普通でした。

 そういうご時世でしたから、当時はかなり多くの母親がつらい思いを抱えて子育てをしていて、その思いが子どもに乗り移ってしまっていたのではないかっていう気もします。

子どもと長く過ごすと、照れがなくなる

右は鈴木おさむさん
右は鈴木おさむさん

鈴木おさむさん(以後、敬称略) 僕はここ最近、ずっと子どもと一緒にいるじゃないですか。子どもが0歳の時期に長い時間、一緒にいられてよかったなと思ったことがあるんです。いろんなお父さんを見ていると、「いないいないばあ!」ってやるじゃないですか。

 これって、お母さんの場合はパワー全開でやるんですよね。ところが、お父さんがやると、絶対、どこかに照れがあるんですね、やっぱり(笑)。お父さんというのは、お母さんと比べると、子どもとの距離がどうしてもあるわけです。

 でも、僕はずっと子どもと一緒に過ごしているので、照れがないんですよね。お母さん並みにいないいないばあをウワーッて全力でできる。子どもと一緒に長い時間過ごすことができないお父さんは、例えば公園でそれができるかというとできない。他の人の目が気になってしまって、恥ずかしいから。

 それが、育休を取って、ずっとわが子と一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、それが日常になってくるので、意外と“足並みがそろう”といいますか、お母さん並みに全力投球できるようになった。かなり細かい話なんですけど(笑)、よかったなあと思ってます。