質問② マイナス金利の今、住宅は買い時でしょうか?

 現在、金利は確かに低下しました。2016年3月のフラット35の最低金利は1.250%と、マイナス金利導入の影響を受けていない2月に比べて0.23%も下がっています(21年~35年、融資率9割以下)。近年にない急落といえる状況で、2015年2月の1.37%を下回り、過去最低を更新しました。金利が低いからお買い得!と断言するFPやお金に関わる専門家のアドバイスもチラホラ見かけます。

 一方で、将来は家余りになるのだから現在のような高値で買う必要はない、というアドバイスも見かけます。オリンピック後には不動産価格が下がるからそのときまで待て、といったアドバイスも随分前からたびたび見かけます。

 これらの情報を目にするたびに家を買おうか迷っている方は動揺してしまうと思いますが、いったい何が正しいのでしょうか。結論を言ってしまうと、どれも正しく、どれも間違っている、とも言えます。

 金利が下がったのは事実ですが、都心部の不動産価格は近年大幅に上がっています。人口減少によって家余りになるのは間違いないと思いますが、便利な場所の家は不便な場所の家と比べて、それなりに価値が維持されるはずです(今より価格が高いか安いかは別にして)。

 オリンピックに向けて消費が盛り上がることは間違いありませんが、それが不動産価格にどれくらい反映されるのか、オリンピック終了後のタイミングで価格が下がるか、誰にも分かりません。

 株式投資に置き換えて考えると分かりますが、プロでも損をする(=予想は外れる)という事実を考えれば、株価の予想はほどほどにして、自身でリスクの取れる範囲で投資をしましょう、ということになります。これは不動産も同じです。予想を基に買うようなことはせず、今買いたい人は買える範囲で買いましょう、という退屈なアドバイスになります。

 今後、さらに金利の低下はあると思われます。フラット35ならば、35年の全期間固定で1%を切るくらい下がるかもしれません。場合によっては変動金利で0%近くまで下がるかもしれません。ただ、そんなときであっても上記の原則は変わりません。「将来の予測」ではなく、あくまで「今の状況」を前提に判断をする、という軸がブレない限りは判断を誤ることはありません。

マイナス金利で支払い総額はどう変わる?

 理屈はいったん横に置いて、具体的な数字で計算してみたいと思います。

 例として、4000万円のローンをフラット35の35年ローンで組んだとき、金利が2月の水準と3月の水準では以下の通りになります。

    金利 毎月の支払額 支払総額
2月 1.480% 12万2082円 約5127万円
3月 1.250% 11万7635円 約4940万円

 1カ月あたり4447円、総額で約187万円の差となりました。187万円は大金ですが、4000万円のローンを187万円のために急ぎますか?ということになります。これくらいならば、繰り上げ返済で挽回できるくらいの差になりますので「誤差の範囲」です。187万円を単体ではなくて、支払総額との関係で考えていただければと思います。

 現在、特に都市部は不動産価格がかなり上昇しています。不動産経済研究所の「全国マンション市場動向・2015年のまとめ」には過去10年の価格変動が載っています。10年前、2006年の首都圏マンションの平均価格は4200万円ですが、2015年では5518万円で約31%も上昇しています。価格の高い東京都区部でも2006年の5149万円から2015年の6732万円まで約30%の上昇です。

 首都圏の平均価格で、2006年に買った場合と2015年に買った場合も併せて計算してみたいと思います。頭金は1割、2015年の数字は金利のみ参考として、マイナス金利導入後の数字で計算します。

      借入額   金利  毎月の支払額 支払総額
2006年 3780万円 2.70% 13万9219円  約5847万円
2015年 4966万円 1.25% 14万6043円  約6133万円

 2006年の金利はおおむね2.6~2.8%で推移しているため、間を取って2.7%で計算しました。上記の通り、支払い額では現在買ったほうが286万円高いという計算結果になりました。これは金利低下以上に不動産価格が上昇したことが原因です。金利が低いからお得、というほど単純な話ではないということです(これは単純計算による比較です。実際には、今買わずに10年後に買うのなら返済期間は短くせざるを得ません)。

 不動産価格の上昇は、景気の回復、低金利、贈与枠の拡充や住宅ローン減税など購入支援の税制、円安、外国人投資家による購入、復興需要による人手不足と資材価格の上昇など、様々な理由が挙げられます。