格安居酒屋で「デート」をするか? 低価格の落とし穴

 (事業計画書を見せてもらって)フットサル教室の価格、これはどうやって決めたんでしょう?

 周りのサッカー教室とかフットサル教室、あとは別の分野ですけど水泳とかいろんな習い事を参考にしました。高過ぎず安過ぎず、くらいです。かなり調べましたけど、あまり高くしてもお客さんが集まらないと思いましたので。

 うーん、相場を意識するのはもちろん大切なんですけど、それだけじゃダメなんですね。相場はどこが作るかというと、基本的に大手企業が作るんです。客が多くて規模の利益が働いてお客さん一人当たりの売り上げが少なくてもやっていけるところと、個人で行うビジネスを同じ価格にしたらとても成り立たないんですね。趣味とかお小遣い稼ぎでやるなら別にいいんですけど、しっかり収入を得ることが目的ならいかに高い価格でお客さんを呼ぶか、という考え方もしないと駄目なんです。

 初めて起業・独立をする人は自信のなさから相場並み、あるいは相場以下の価格をつけてしまうことが多い。しかしスモールビジネスでそれをやってしまうとお客さんは少ない上に客単価も低い、という状況に陥る。結果的にアルバイト並みの収入となり、リスクを取って独立した意味がないような状況の人も決して少なくない。

 何で価格を抑えてしまうかというと、それって結局は低価格にしないとお客さんが来ないと思い込んでいたり、あとは売り手がお客さんに提供する価値は価格しかないと思い込んでいたり、というのがあるんですね。具体的な例だと……もし旦那様がまだ独身で収入は今と同じだったとして、デートで価格の安い居酒屋チェーンは行きますか?

 どうでしょう。多分……というか絶対行かないですね。デートですよね? 隣で大学生が一気飲みとかしてたら嫌ですし(笑)。友達同士ならあまり気にしないかもしれないですけど、デートで楽しく過ごすなら多少の出費は……あ。

 気づかれましたよね。

 ……ええ。何でだろう、自分が客なら価格だけで決めてるわけじゃないのに、売り手になると価格が高いとお客さんが来ない、と思い込んじゃいますね。

 もう一つ、すごく重要なことを無意識におっしゃってますよ。隣に一気飲みをする大学生がいたら嫌だなって。

 こないだ会社の飲み会で新人にお店選びを任せたらそういう所で。一気飲みのコールなんて聞いたのは相当久しぶりでしたよ。これもヒントなんですよね。価格で客層が変わるとか……?

 おっしゃる通りです。デートで格安居酒屋に行かない理由は、親子向けのフットサル教室と考え方は同じです。安いから行くわけではないでしょうし、コーチも重要だと思いますけど、周りにどんな親子が来てるのか、それはもしかしたらもっと重要だと思いませんか? これはフットサル教室にかかわらず、イクメン向けビジネスをやるならかなり重要な視点だと思います。

 確かに。嫌な言い方ですけど、ちゃんとしつけられてない子どもがいてケンカになったり、ケンカくらいならまだしもけがするようなことがあれば絶対に嫌ですからね。そんなことになれば教室の運営者も責任を問われますし、利益どころの話じゃなくなります。

 そうですね。イクメンの方は大手企業でバリバリ働いていている人が多いと聞きましたので、あえて価格を高く設定するのもアリだと思います。もちろん、高価格にすればそれだけ集客は難しくなりますけど。あとはイクメン向けならフットサルの後にパパ同士で交流会とか名刺交換会をやるとか、そんなところにも価値を出すことはできるかもしれないです。子どもを連れてくるのはあくまでお父さんですから、子どもの満足はもちろん、パパの満足も同じくらい重要なはずです。イクメン向けとか名刺交換会なんてチラシとかHPに書いてあったら相当お客さんを選ぶことになりますけど、それでもいいんです。どっちにしろ大規模にはできないわけですから。

 誰でもいいから来てください、じゃダメなんですね。

 自分はFPとして普段の住宅購入の相談を3万円とか6万円でやってます。これは相場の10倍から20倍くらいです。自分としてはどんな人が来てももちろんウェルカムなんですけど、結果的にお客さんを選ぶことになってるわけです。無料相談で済ませようという人は3000円でも5000円でも来ないわけですから、中途半端に値下げしても意味がないんです。それなら可能な限り高値にして、それに見合った価値を提供する、というのが正しいスタンスです。良い物を安くとか、相場に合わせるとか、コストに利益を少し上乗せするとか、それ以外にも値付けの方法はあると考えてください。お客さんが納得・満足するのであればいくら高くても構わないわけですから。