児相と警察の連携は自治体によって差が生じている

山本 報道によると、警察が2回行ったほか、市は市で健診を受けていない状況を把握して訪問しているんですよね。でも、警察も市も「虐待なし」と判断している。双方が「虐待なし」と結論付けたために連携に至っていません。

 自治体の9割以上に要保護児童対策地域協議会(要対協)というところがあって、リスクが高いと思われる家庭を登録して情報共有できる仕組みはあるのですが、十分機能していないのが現状です。例えば市が「虐待はないと判断したが、気になる」家庭として要対協に上げていれば、児童相談所が動くきっかけにもなったかもしれません。

駒崎 子どもの命は何よりも大事なはずなのに、なぜ基礎的な情報共有すらできていないのでしょうか。

山本 実は自治体によって対応に差が生じています。虐待防止対策に積極的に取り組んでいる大阪府では、「警察は虐待の有無について判断ができない」という前提に立って、児相にすべて情報を上げることを徹底しているんです。訪問してみて明らかな虐待痕跡を発見できなかったとしても「通報があったので行きました」ということだけでも児相に報告しているんです。リスクが高いケースでは「ぜひ専門の職員を行かせてください」と申し渡しを付けることもあるそうです。

 児相は大変ですが、警察から来た情報はすべて受けるようにしていると。大阪市は児童虐待が多いからこそ真剣な取り組みをしているわけですが、こういった取り組みを横展開していきたい。

駒崎 うーん、でもそこは自治体任せでいいんでしょうか? もちろん、地方分権という考え方はありますが、こと子どもの問題となると国を挙げて取り組むべきで、大阪府のような情報共有の仕組みを義務化することはできないんですか?

山本 法律を整えることももちろん大事です。ただし、実態が伴わないと意味がない。大阪府もやはり児相がパンパンで、非常に苦労されていると聞いています。情報共有が可能になる体制づくりが同時進行で不可欠です。

駒崎 なるほど。シンプルに「児相のマンパワーを増やしていこう」とはならないのでしょうか?

山本 増やしたいんです。

駒崎 できない理由は何ですか?

山本 実は児相のマンパワーを拡充する方向で動いているんです。審議中の来年度予算案には、都道府県170万人当たりでは児童福祉司3人増員が盛り込まれています。

駒崎 3人増員でも「過去10年間ではあり得なかった快挙」と言われていますよね。素晴らしい。

山本 そうなんです。そうなんですけど…対応しないといけない虐待件数が急増しているんです。全国の児相が対応した相談件数の推移があるのですが、平成26年度で約9万件。15年前の約7.6倍です。しかも、1件1件の相談内容がより複雑化していて、1件当たりにかかる対応の時間は増えているんです。 (※厚生労働省の参考資料:児童相談所での児童虐待相談対応件数

駒崎 マンパワーを増やしても、とても追いついていないと。

山本 さらに言えば、児相の役割というのは虐待対応だけではありません。子育て相談や非行対策にも同時に取り組んでいかないといけない。