誘拐犯は、後ろからついてくるとは限らない

 では、当時の状況を説明しましょう。最初の事件の被害者である少女は、歩道橋の階段を上っていました。すると、犯人はその反対側の階段を上り、被害者が向かっている先から歩いてきて、被害者に近づいていきました。

 実は、ここが犯人の巧妙なところなんです。一般に、「怪しい人は後ろからついてくる」と信じている。ところが、この事件の犯人は、向い側から歩いてきている。そうすると少女は、犯人を見て「偶然、出会った人」と判断し、油断してしまうんですね。

 犯人は、少女とすれ違うときに、こんな風に話しかけます。「今日は暑いね。僕はこれから涼しいところに行くんだけど、君も来ない?」。そして、そのまま少女の横を通り過ぎます。

歩道橋を上っていく少女を見た犯人は、反対側の階段から歩道橋を上り、偶然を装った。歩道橋は、高い位置にある上、横断幕などで視線が遮られていたりして、「見えにくい」場所になっている
歩道橋を上っていく少女を見た犯人は、反対側の階段から歩道橋を上り、偶然を装った。歩道橋は、高い位置にある上、横断幕などで視線が遮られていたりして、「見えにくい」場所になっている

──通り過ぎるだけ? すると、宮崎は少女を無理やり連れ去ったりはしていないのですか。

 はい。そこも実に巧妙なんです。誘拐というと、たいてい「手を掴んで無理に連れて行く」というイメージがありますよね。だから、そんなことをすると、子どもは怖がって抵抗します。ところが、この事件の場合、犯人は何もせずに立ち去ってしまうのですから、少女は「この人は大丈夫、悪い人じゃない」と判断してしまうんです。そして、その後ろをついて行ってしまったんですよ。

 少女に声をかけた後も、犯人は少女と一緒に歩くのではなく、ちょっと離れて歩いています。だから、もしその様子を周りで見かけた人がいたとしても、特に怪しまれることはなかったはずです。

──なるほど…。でも、もし少女が犯人の後ろをついて行かなかったら、どうするのでしょう。犯人としては、それは失敗ですよね。

 いえ、きっとそれはそれで構わないんだと思います。この少女がダメだったら、次のターゲットを探せばいい。必ずその少女でなければならないというわけではないから、さほど執着もしないんです。実際、彼はたくさんの子どもに罠を仕掛けたと思いますよ。