「きれいに取れた」はずが予想外のⅠc

―― そうやって手術室に入っていったのですね。

太田 実家と夫の両親も含め、家族全員に「頑張って」と見送られて、手術室に入ったのが午後12時30分。次に気づいて時計を見たら夜8時前でした。あ、私、悪性だったんだ……とまず思いました。

 手術後、最初にグループリーダーの先生が話をしてくださいました。「きれいに取れましたから大丈夫ですよ。取れるだけのリンパ節を40ほど取りました。ちょっと血管を切っちゃったんで出血が多くなって失礼しました」ということも言われました。

 このとき「ステージⅠでしょう」と言われました。ステージⅠの中も3つに分かれています。aは、片側の卵巣にだけがんがとどまっている場合、bは両側の卵巣に腫瘍がある場合、cになると、片側か両方の卵巣内にがんはとどまっているのだけれど、腹水の中にがん細胞が認められた場合です。

 手術後、大網とリンパ節の病理検査もします。その結果が1カ月後の5月7日に出ました。私の場合はcでした。もうショックでした。「え、きれいに取れたって、Ⅰのaだろうっておっしゃっていたのに」と言うと、先生は「僕も驚いたのですが、もう1カ所見つかったんです。ですから抗がん剤治療をやったほうがいいです」と言いました。

 手術で卵巣と子宮を全摘しましたが、がん細胞は強いし、進行がんなので、体の中のどこにいるか分からない。だから、予防をする意味でそれを「たたく」ために抗がん剤治療をしましょう、というのです。

娘に「がん」という言葉は使いたくなかった

―― あるかどうか分からないがんに対しての抗がん剤治療が始まるのですね。

太田 そうです。血液検査も毎月していて、腫瘍マーカーでも全然出ません。それに、抗がん剤治療ってあのイメージですよね、点滴受けて、苦しんで、吐いて、寝たきりで、髪の毛が抜けて……。「2週間後の診察までに決めてきてください」と言われました。その間、本当に色々と調べました。そのときに知ったのは、卵巣がんはステージⅠa以外は、抗がん剤治療をするのが基本的なガイドラインになっていることでした。

 ちょうどこの時期、中学2年の長女に「相談」というかたちで話をしました。彼女はもう生理も始まっていましたから、同じ女性として分かち合ってほしいという思いもありました。「手術でチョコレート嚢腫を切除して、今ママのおなかの中に悪いものはもう何もないけれど、予防のために抗がん剤治療を勧められているの。どう思う?」と。

 「悪いものはもうないのに、なぜ抗がん剤治療をしないといけないの?」と、まず長女も言いました。「ママもそう思う。だけど、やったほうがいいと先生が言うので、ママもすごく悩んでいるんだ」と話をして、一緒に考えてもらいました。結局、「先生がそうおっしゃるならやったほうがいいのだろう」というところに落ち着きます。私自身、ほぼそう決めてから、ではありましたが。

―― このときも、娘さんには「がん」とは言わなかったのですか。

太田 がんという言葉は使いたくなかったのです。「がん」という言葉のイメージ、きついですよね。「がんになっちゃったらもう死ぬ」みたいな感じがどうしてもありますよね。こんなにがんになる人が多くなっているのに。ですから、腫瘍という言葉を使いました。

 自分でも色々と調べられることは調べ、その結果、抗がん剤治療をすることに決めたつもりではありましたが、いざ先生を前にすると、「やっぱり、しばらく様子を見るという選択肢はないのでしょうか」と聞いていました。答えは、ショックなものでした。はっきりと「治療しないと1年以内に再発しますよ」と言われたのです。多分、覚悟を決めきれずにいた私の背中を押すためだと思います。

――次回は、抗がん剤治療を終えるまでと、家族との関わりについて詳しく伺います。

(文/Integra Software Services イメージ写真/鈴木愛子)