「悪い顔」は2センチの固い部分だった

 3日後に紹介された大学病院で診察があり、今度も「悪性の可能性があります」と言われました。そしてこれからの治療方針を立てるうえで、体中に転移がないかを調べるために、PET-CT検査を受けました。結果を聞きに行ったのは、2週間後の3月26日でした。このとき「転移はしていないようです。ステージとしては、悪性だったとしても初期だと思いますよ」と言われました。ステージⅠですね。

―― 2週間、結果を待っていたときはどんな気持ちでしたか。

太田 人間ドックの際に、3週間以内に取らないと破裂するかもしれないと言われていたので、先生方の予約がなかなか取れないのは不安でした。ただこの期間を利用して、自分なりにかなりリサーチをしました。セカンドオピニオンを聞きに他の病院を訪ねたりもしました。

 そんな矢先、腹痛で苦しんだ夜がありました。チョコレート嚢腫が捻転を起こしたか、破裂した兆候だろうと思って夜、夫に車を運転してもらって、救急外来で診察を受けたところ、女性の先生が診てくださいました。私の主治医は男性で「卵巣がんをやっつける」という感覚なのですが、その女性の先生は、同性だったこともあるのか、丁寧に説明をしてくださいました。

 「今回の腹痛は破裂や捻転が原因ではなく、子宮内膜症からくる痛みですね。それから、不安も痛みになって出てきているんだと思います」とのことでした。またその先生は、子宮内膜症が原因でチョコレート嚢腫ができたということと、「悪い顔をしている」部分は「2センチほどの固いところです」と教えてくださいました。そのとき、チョコレート嚢腫は10センチ近くになっているとも言われました。

 はっきり子宮内膜症が原因だと分かったうえ、自分の中のがんかもしれないものが2センチの固いものなのだとも分かって、少し落ち着きました。ただ、子宮内膜症が原因ということで、「経過観察」と最初に診断をされたことを少し腹立たしく思いました。その後調べたところでは、やはり「経過観察」にしてしまう先生が多いそうです。でも子宮内膜症からチョコレート嚢腫、そして卵巣がんというのは大きな流れなんです。

 そのことを知っていたら、私も2年半前に放置なんてしなかったと思います。そのときすでに子ども二人産んでいたので、ピルを飲んで閉経に近い状態にして出血を止める治療を受けることもできたのですから

手術時間の長さで悪性かどうかが初めて分かる

―― 腹痛を起こしたときが、一番つらかった時期なのでしょうか。

太田 そうですね、本当につらかったです。悪性の可能性があると言われたことを夫以外の誰にも話をしていませんでした。娘達には、「がん」とはもちろん話をしていません。もちろん3月初旬に「悪い顔をしている」と言われた日はワアワア泣きながら帰りましたから、「簡単な手術では済まなくなってしまった」というようなことを伝えました。

 でも両親にも子ども達にも、まだ確定ではないのに悪性、つまりがんかもしれないと言ってしまうことで心配をかけたくなかったのです。とはいえ、自分の中では不安で仕方がない。だから腹痛を起こしたりもしたので、手術の予定を1週間早め、4月9日が手術日になったのです。

 術前に先生から説明がありました。「おへその下から切ってチョコレート嚢腫を取ります。チョコレート嚢腫のその固い部分が、良性か、あるいは境界型のものであれば、その他の内臓をつなぐ大網(たいもう・胃から垂れ下がって大腸や小腸を覆っている大きな網のような脂肪組織。卵巣がんの転移がよく起こる組織で手術の際に切除する場合が多い)を切除するだけですので、手術は3~4時間で済みます。ただ明らかに悪性だと分かったら、チョコレート嚢腫と大網に加え、転移する可能性のあるリンパ節はすべて取ります。この時点でご家族と相談している時間はありませんので、それは任せてください。6~7時間かかったら悪性だったと思ってください」と言われました。