ノルウェー国立バレエ団で、25歳にして同バレエ団初の東洋人プリンシパル(バレエ団のトップバレリーナ)に昇りつめた西野麻衣子さん。ダンサーとして頂点にいる32歳で妊娠、33歳で出産を経験し、出産後はやめてしまうバレリーナも多い中、そのわずか7カ月後に屈指の難役といわれる『白鳥の湖』で主役を演じ切り、トップへ復帰。不屈の精神を持つ彼女に大きな影響を与えたのは、ロンドンに単身留学する15歳まで一緒に大阪で暮らした両親が共に働く姿でした。舞台の上で華麗なお姫様を演じつつも、自ら「大阪のおばちゃん」というほどその素顔は朗らかでパワフルな西野さんに、インタビューしました。

西野麻衣子

大阪生まれ。6歳よりバレエを始め、橋本幸代バレエスクール、スイスのハンス・マイスター氏に学ぶ。1996年、15歳で名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。19歳でノルウェー国立バレエ団のオーディションに合格し入団。2005年、限られた人しか到達できないバレエ団のトップ「プリンシパル」に25歳で抜てきされる。同年、『白鳥の湖』で見せた踊りが高く評価され、ノルウェーで芸術活動に貢献した人に贈られるノルウェー評論文化賞を受賞。現在も、同バレエ団の永久契約ダンサーとして活躍中。家族はノルウェー人の夫・ニコライさんと長男・アイリフ君(2歳半)。オペラハウスで芸術監督をしているニコライさんとは劇場で出会い、結婚した。

ノルウェーでは1年の育休を夫と分け合える

日経DUAL編集部 妊娠から復帰までを追ったドキュメンタリー映画『Maiko ふたたびの白鳥』が2月20日、日本でも公開されますね。映画はキャリアと出産の間で揺れる姿を描いています。

西野麻衣子さん(以下、敬称略) ノルウェーの作品ですが、日本での公開を願っていたのでうれしいです。私は女性がもっと活躍するために、日本にもう少し変わっていってほしいと思っています。2020年に東京オリンピックが開催されますから、国際的な祭典の場にふさわしく、もっとインターナショナルにならないと恥ずかしいと思うんです。私は世界を舞台にしてきて、いつも日本人であることを誇りにしてきました。だからこそ、もっと国際化してほしい。そのためには女性がちゃんと輝ける場所にしていかないといけないと思います。だからこの映画は特に男性に観てほしいです。

―― 出産経験のあるバレエのトップダンサーはとても珍しいそうですね。出産後は夫のニコライさんが5カ月の育児休暇を取ったそうですが、ノルウェーでは自然なことですか。

西野 ノルウェーでは共働き夫婦が多く、有給で取れる1年間の育休期間を夫と分け合うことができる制度があります。男性も女性も働きますから、男性は働く女性をサポートしなければならない状態にあって、それがノーマルです。日本では能力ある女性が大学で専門的な勉強もしてきて、自分を輝かせる場所があるのに、子どもができたら家庭に入ってしまうのはもったいないと思います。

映画『Maiko ふたたびの白鳥』より
映画『Maiko ふたたびの白鳥』より

―― ご両親が共働きだったそうですが、お二人の背中を見てきたことが、西野さんの考えの根底にあるのでしょうか?

西野 もし母が働いていなかったら、私の考えも違っていたかもしれませんね。母はいわゆるキャリアウーマンでしたから、働きながら母親役も果たす姿を近くで見てきました。だから自分も母親になった今、頑張れるというのは、もちろんあります。

―― 映画では「スーツを着て働きに出る母をかっこいいと思った。私の自慢であり、理想の女性像だった」と話していますね。