子育てから仕事から夫婦関係から社会問題まで、働く母とはなんと多くの顔を持って生きていることだろう。最愛の息子を育てながら小説家として活躍する川上未映子さんが、素敵も嘆きもぜんぶ詰め込んだ日々を全16回にわたりDUAL読者にお届けします。第11回のテーマは、「ジェンダーフリー」についてです。

 最初から負ける戦いとわかっていてもやるしかないのってありますよね……戦いという比喩は適当じゃないかもしれないけれど、でもやっぱりこれはある種の闘争なのだ、女性にとってはそうなんだよねと今日もフレシネを飲んで考えた。

 あと数カ月で4歳になる息子はとてもおしゃべりで、いつどこで覚えてきたのかな、というようなことを楽しそうに話して、親を驚かせてくれる。ごはんを食べ終わったあとにいきなり真顔になって「いつも、本当にありがとうございます」とか、ちょっと離れたところからわたしを呼ぶときに「すみません、かわかみみえこさ〜ん」とか。これまでの数年間で耳から入ってきた音に意味がなんとなく追いついて、一緒になって出始める時期なんでしょうね。

息子がどこからか仕入れてくる「性別役割」的なもの

 で、最近は<性別>にかんすることも、少しずつ増えてきた。「ウルトラマン」とか「仮面ライダー」に夢中なので、着眼点がどうしても「戦う」とか「勝つor負ける」とかになりがちなんだろうけれど、すごく嬉しそうに「ねえねえ、女の子は男の子より、弱いんだよねえ!」と言われたときは、思わず全力で身構えてしまった。

 「そんなことはない。強い女の子もいれば弱い女の子もいるし、強い男の子もいれば、弱い男の子もいる。弱さ、強さに、性別は関係ない」とあわてつつも力をこめて説明すると、「そうなんだ……」という感じで、いちおう納得はしてくれる。しかし、ほっとするのもつかの間。また別の日には、うきうき笑顔で「ねえねえ、男の子は女の子を守るものなんだよねえ!」みたいな感じ……。

 「いや、それもちょっとだけちがう。男の子だから、ということはない。そのとき困っている人や弱っている人がいれば、性別は関係なく、お互いに助けたり守ったりするのだ」と言うと、「ふうん……」みたいな感じでふたたび理解は示してくれるけれど、こういうくりかえしが、最近ちょっとずーつ増えてきたのだ。「男の子」と「女の子」、性別による傾向とか、役割主義的なあれこれを、ごくごく自然に仕入れてくるんですよね。