「長時間残業削減」「女性の再就職」など、評価されるべき項目多数

帝京大学法学部法律学科教授の村上文さん
帝京大学法学部法律学科教授の村上文さん

 その後、4人の識者が登壇し、一橋大学の中窪裕也教授(経営法務専攻長)の司会により、パネルディスカッションが設けられました。

 まず、帝京大学法学部法律学科教授の村上文さんが「女性の活躍推進については、2003年の男女共同参画推進本部決定で数値目標も設定されていたが、その取り組みはなかなか社会に浸透してこなかった」とし、今回の法律が新たな取り組みを義務付けている側面を評価しました。

 また、女性管理職を増やすだけでなく、全社員の長時間残業削減といった課題にも着目していること。そして、出産などを理由に退職した女性労働者の再チャレンジ(再就職)を促進していることなどについても、特筆すべきだと指摘しました。

日本では“ずっと職場にいる人=仕事が好きな人”と評価されるきらいがある

公益財団法人資生堂社会福祉事業財団理事長などを務める大矢和子さん
公益財団法人資生堂社会福祉事業財団理事長などを務める大矢和子さん

 資生堂出身で、公益財団法人資生堂社会福祉事業財団理事長などを務める大矢和子さんは、長時間残業を削減するためには「社内の風土を変える必要がある」と言及。

 「日本の会社では“ずっと職場にいる人=仕事が好きな人”と間違った解釈をされている」「同じ社員が海外勤務の間はほとんど残業しないのに、日本に帰ってくるなり残業をし出すことがある。これは日本の会社に根強い“残業する社員を評価する”または“周りが残業しているから、自分もしてしまう”という風土によるともいえるのではないか」と話しました。

 読売新聞社会保障部デスクで、3人の子どもの父親であり、十数年前、妻の出産時に休暇を取った経験を持つ大津和夫さんは、「私は子どもの所属する野球チームの保護者会で2年間まとめ役を担った。約80人の子ども達、約160人の親達をまとめるなか、体重が3kg減るほどの苦労もしたが、得たものも大きかった」と述べました。

父親も子育ての“補欠”ではなく、“レギュラー”

 「高校のPTA役員も務めたりした一方で、イクメンと言われるのが大嫌い。育児する女性は“イクウーマン”とは言われないのに、なぜ育児する男性ばかり特別視するのか。父親も子育ての補欠ではなく、レギュラーなのだ」(大津さん)というコメントが印象的でした。

読売新聞社会保障部デスクの大津和夫さん
読売新聞社会保障部デスクの大津和夫さん

 また、ワーク・ライフ・バランスは「仕事と生活の調和」と訳されることが多いが、大津さんは「仕事と生命の調和」と訳すといい、長時間労働の削減や収入の確保が必要だと指摘しました。

 安西法律事務所に所属する弁護士の木村恵子さんは、「私は女性の非正規社員の働き方に着目したい。非正規社員の中には“不本意な非正規社員”と“そうでない非正規社員”がいる」とし、「いわゆる“103万円の壁”“130万円の壁”のために非正規社員の道を選ぶ方がまだ少なくない」と発言。

 さらに、非正規社員の中でも、事務系派遣社員では、もとは正社員として勤務していた人も多く、「『なぜ正社員を辞めたか』と聞くと長時間労働が原因だったというケースもある」とも。

 最後に、大矢さんが「女性活躍推進法は女性のためだけではなく、男性を含めた会社全体の改善につながるもの。企業全体の命題として、経営トップから社員に何度も繰り返し、この重要性を伝えてほしい」と述べ、これを受けて司会の中窪教授がまとめのコメントをして、会を締め括りました

安西法律事務所に所属する弁護士の木村恵子さん
安西法律事務所に所属する弁護士の木村恵子さん

(取材・文/日経DUAL編集部 小田舞子)