子育てから仕事から夫婦関係から社会問題まで、働く母とはなんと多くの顔を持って生きていることだろう。最愛の息子を育てながら小説家として活躍する川上未映子さんが、素敵も嘆きもぜんぶ詰め込んだ日々を全16回にわたりDUAL読者にお届けします。第10回のテーマは、「小学校受験」についての後編です。

 小学校受験はしたほうがよいのかそうでもないのか。前回からひきつづき、今日もあれこれフレシネを飲んで考えた。

 前回の『受験っていったいなんなのか』では、私立派の意見のおおまかなところを挙げて、あれこれ感じたことを書いてみた。小学校受験はもとより偏差値教育に一ミリの興味のないわたしも、みなさんの話を聞くとそれなりに心は揺れるのが、我ながら心細かった。しかし。「小学校受験とかほとんど意味なーし」と堂々と言ってくれる人もけっこういる。なかには小学校受験の経験者もいるし、子どもたちをいわゆる一流大学に入れた人もいるし、こちらもなかなか説得力ある感じ……。

「受験は必要ない」という方の考えを聞いた

 公立派の意見はだいたいこんな感じ。

1)小学校から私立に入っても、勉強ができなければ相当しんどいことになる。もちろん学校のレベルによるけれど、これはもの凄いストレス。落第だってふつうにありえる。たとえば某名門大学では、進級できない学生はとりあえず留学させる、みたいな本末転倒な処置がコースみたいになっていたりする。とはいえ、名門大学ならまあそれなりに意味はあるかもしれないけれど、「公立じゃないですよ程度の意味しかない私立」みたいな、二流、三流の学校に入ってエスカレーター式にそこの大学を卒業したって意味がない。むしろマイナス。いずれにせよ、とにかく入ったらそれで安泰、ということはまったくない。

2)私立の小学校に入学して、仮に学力が高かった場合も、そういう子は中学受験をするので結果的に二度手間になる。小学校程度の学力は努力というより素質がものをいうので、私立の小学校に身を置いたからといって学力があがるとは考えにくい。できる子はできるし、できない子はできない。つまり、どこに通っても同じ。

3)ならば、小学校の3年間は子どもらしい環境で遊ぶことの楽しさを知ってもらい、子どもの性質を見極める方がよい。勉強に興味があったり、素質があるのならば、3~4年生頃から本格的に塾に行かせて中学受験をさせればよい。

4)近所に友達ができない。場所にもよるが、小学生が往復2時間もかけて通学する必要がない。その時間でできることはたくさんある。

 なるほど……気がつけば首が外れるほど肯いているわたしがいた。