「愛せない気持ち」は、母親が直面していた環境と強く関わっている

 子どもを愛せないことは取りあえず「あり」だと認めることにして、もう一つ、「なぜ愛せないのか」という理由についても考えてみましょう。

 子どもを素直に愛せない、というクライアントとたくさんお話をしてきた結果、私はそこには、たまたま、その子が幼い時期に色々なストレスが積み重なってしまった、という、不運の重なり合いのようなものがあると感じるのです。

 職場復帰したものの、仕事がトラブル続きで大変な状態だった、夫と不仲だった、実家とトラブルがあった、あなた自身がすごく体調を崩していた、など。

 元気なときには、子育てが大変でも、なんとか乗り切れます。しかし、色々な負担が重なり、さらに夜泣きやかんしゃくを起こす赤ちゃんだったとしたら、同じ子育てをしていても、実際に感じる負担感は元気なときの2倍、3倍に膨らむのです。

 すると、その子には何の罪もなくても、「この子は私を苦しめる存在」というふうに親は受け取ります。同時にイライラする自分を責めるようになり、いっそう「私の自信を奪う、厄介な子」という目で子どもを見るようになるのです。

 例えば、仕事などでも、心に余裕があると前向きな行動や発言ができるのに、余裕がなくなるとすごくネガティブになってきて「この仕事は自分にとっては負担だ……」と思うようになります。このように、人間の考え方は、エネルギーが十分にあるかどうかで、大きく変わるものなのです。

 よく、子どもを嫌いになるのは、その子の容姿や能力が劣っているからではないか、などと考える方が多いのですが、そういった要因よりも「その子が赤ちゃんだったころの環境」のほうが、大きく関連していると感じます。

 あなたが子どもを素直にかわいいと思えないのは、年子で苦労をしたから、あるいはあなた自身がへとへとな時期だったから、と思うことができると、「仕方がなかったのかな」と思えるかもしれない。すると、知らず知らずのうちにあなたを苦しめていた「子どもを嫌うなんて母親失格」という自責感が和らぐかもしれません。

 また、人それぞれ、ストレスを誘発する「ツボ」のようなものがあります。

 睡眠不足がとにかくつらいという人は、夜泣きをする子だと負担感がぐっと増すでしょう。そんな人でも、わがまま放題な子は許せたり、また別の人は、夜多少眠れないことは受け入れられても、「イヤ、イヤ!」と言われるとカッとしてしまうといいます。このように人それぞれでツボが違うから、たまたま自分の急所のツボを刺激してくる子どもの場合、「すごく大変」というふうに感じる、という側面もあります。子どもの愛し方、かわいがり方にも、人の数だけバリエーションがあるのです。

写真はイメージです
写真はイメージです