最大の課題は公的補助が受けられないこと

 現在、堀川さんが最も心配していることは、公的補助の問題です。

「現在のところ、筋電義手は東大病院からデモ用としてお借りしているので自己負担はありません。しかし、購入しようと思うと、約150万円掛かりますし、装置の周囲のソケットは半年から1年に1度、交換する必要があり、その都度、およそ10万円ほど掛かります。そのため、今後は、藤沢市に全額補助の申請を出す予定なのですが、小児義手に対する社会の認識が低いため、理解を得ることが難しく、ハードルは高いと言われています」(堀川さん)

 義手本体に150万円、周囲のソケットに10万円。子どもの成長に合わせて義手を替えていく必要がある小児の筋電義手の場合、家族の負担は決して軽くはありません。

 しかし、芳賀教授によれば、朗報もあるそうです。国連の障害者権利条約第30条では「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」について、必要な措置を取ることを求めています。2014年、日本もようやくこの条約に批准したのです。「2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、現在のところ、公的補助の対象外となっている筋電義手やアクティビティー用の特別な義手も、今後、公的補助の対象になる可能性はあります」

「我々としても、小児用の筋電義手が公的補助の対象になるように、様々な場面で、広くアピールしていく計画です」と藤原さん。「東大に先駆けて、2002年ごろから、小児用の筋電義手の導入に熱心に取り組んでこられた兵庫県立リハビリテーション病院との連携を図り、ここで設立された小児筋電義手バンクのサポートを受けて、小児義手を導入したいと考えられているお子さんと親御さんを支援していくつもりです。ご関心のある方は、いつでもお気軽にご相談ください」

 2015年7月には、スイスで、ロボット技術を駆使した義手や義足を身に着けた障害者スポーツ選手が技を競った世界選手権「サイバスロン」が開催されるなど、欧米を中心に、進化し続ける義手の世界。しかし、日本では障害を持つ子どもについてどこに相談すればいいか分からないという両親が多いというのが現実です。義手を着けた人が何の違和感も持たれることなく溶け込める。そんな社会を日本でも実現するためには、一人でも多くの人が小児義手についての知識を持つことが第一歩になるのかもしれません。

(取材・文・写真/山田久美)

関連URL
東京大学医学部附属病院リハビリテーション部・科 http://todaireh.umin.ne.jp/
東京大学医学部附属病院リハビリテーション部・科 四肢形成不全外来(PDF)
http://todaireh.umin.ne.jp/news/gairai.pdf
小児筋電義手バンク(兵庫県) https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf10/bank.html