小児義手のメリットとデメリット

 そもそも小児義手を導入することのメリットはどこにあるのでしょうか。

「義手を使って、色々なことができるようになりたいと思った場合、今後は、筋電義手を選択することになると思います。しかし、筋電義手は小児用であっても、重さが1本当たり300gから400gもあります。これは、子どもにとってはそれなりの負担です。そのため、成長してから導入しようと思っても、腕に義手を支える筋力や骨格が十分にできておらず、重さに耐えられないというリスクがあります。また、子どものころから両手を使う習慣ができていないと、義手を使いこなせるようになるまでに、かなりの努力を要すると思われます。成長とともに、片手ですべてを手早く済ませることができるようになりますし、わざわざ義手を使用して両手の動作を行うことが習慣となっていなければ、義手は邪魔なものでしかありません。やはり、小さいころから義手に慣れ親しんでおいたほうが、将来的に日常生活の中でも義手を使いこなすのは楽になるのではないかと思われます」(芳賀教授)

「友達と同じように遊び、運動し、学ぶことは、心身の発達過程にある子ども達にとって、極めて重要なことです。それによって、子ども達の『自己肯定感』を育成することができます。『自分は他の子達と同じようにできない』という劣等感を抱いてしまうことが、何よりも問題なのです。これは四肢形成不全だけでなく、何らかの障害を持つすべての子ども達にも言えることです」(藤原さん)

義手を着けることで子ども達は「はさみを使う」「靴下をはく」といった友達と同じことを両手で練習していく(写真提供:東京大学医学部附属病院リハビリテーション部・科)
義手を着けることで子ども達は「はさみを使う」「靴下をはく」といった友達と同じことを両手で練習していく(写真提供:東京大学医学部附属病院リハビリテーション部・科)

 しかし、その一方で、芳賀教授は、小児義手を導入することのデメリットも指摘します。

義手を使うか使わないかは親子の判断。ただし正しい情報は不可欠

「将来的には改善されると思いますが、現在のところ、義手には、『触っている』という感覚を脳に伝える機能がありません。触っているという感覚は、我々にとって非常に重要です。その感覚の発達が、義手によって阻害される可能性もあるのです。加えて、これまでできていたことが、義手を装着することによってかえってやりにくくなることもあります。ですから、私は『小児義手を導入しない』という選択肢もあると考えています」

「私が知っている患者さんの中には、高校生になって初めて能動義手を導入した男の子がいます」と言うのは藤原さん。「彼はリハビリを重ねることで、上手に使いこなすことはできるようになりました。しかし、これまで義手なしで家でも学校でもすべてをこなせるようになっているため、義手を使うほうがむしろ余計に時間が掛かってしまうこともあり、義手は使えるものの、日常生活や学校での活用にまでは至っていません。要するに、本人のやる気次第なのです。ですから、親御さんには、大人になってから初めて導入したとしても、本人が義手を使うという意志がはっきりしていれば決して遅くはないということは、ぜひお伝えしたいですね」

東京大学医学部付属病院リハビリテーション部・科の芳賀信彦教授と藤原清香助教
東京大学医学部付属病院リハビリテーション部・科の芳賀信彦教授と藤原清香助教

 このように、小児義手を導入するか否かの判断は、最終的には、子ども自身や親御さんに委ねるべきであるというのが、芳賀先生と藤原先生の基本的なスタンスです。ここで重要なのは「小児義手を導入した場合と導入しなかった場合、両方について正しい情報を持ったうえで判断を行う」ということ。しかし、現状では患者家族だけでなく医療関係者でも小児義手についての知識を持っている人がほとんどいないのが現実です。

「障害を持つ子どもの家族だけでなく、一人でも多くの人に小児義手についての知識を持ってほしい」と二人は口をそろえます。そこで実際に小児義手を使用している家族のお話を聞いてみることにしました。