10年後の世界を生き抜く力

 昨年から、6年生のキャリア教育に力を入れている。「10年後の世界を生き抜く力」を育てたい。10年後、どんな職業が増えているか分からない。今ある仕事で、無くなっているものもあるだろう。やわらかな頭と行動力で、道を切り開いてほしいと願っている。講師の選定は、子ども達の興味関心を踏まえて行う。そして、将来性も計算に入れる。テレビ局のディレクターに来てもらったのは、コンテンツビジネスは無くならないから。情報化社会の中で、受け手ではなく送り手になる楽しさを知って欲しい。そう思ってお願いした。

手染めの毛糸は一度に30個しかできない。子ども達は、コサージュ作りのワークをすることで、クリエイターの仕事の魅力を学んだ
手染めの毛糸は一度に30個しかできない。子ども達は、コサージュ作りのワークをすることで、クリエイターの仕事の魅力を学んだ

 毛糸作家の方にお願いしたのは、オリジナルの毛糸をネットショップで売っているから。今や、商売に国境も店舗もいらない。一方で、彼女はワークショップを全国で開き、対面での仕事も大事にしている。いくらネット社会が進んでも、いや、進むからこそ「ライブ」の魅力は増す。アーティストの売上げは、楽曲の販売よりライブチケットや会場での物販の比重が増し、来場者は体験をSNSで拡散する。デジタルと手芸という究極のアナログとの融合に、実は将来性がある。子ども達は糸に触れ、自分の作品を作って友だちと見せ合い、作る時間を楽しんだ。この体験を広める側に回ろうとすれば、自ずと仕事が見えてくる。小学生で早すぎるということはない。思春期に入る前に、仕事をイメージすることは可能性を広げる。年を取るごとに、自分の概念や経験にないものを受け入れにくくなる。これは私に関係ないと決めつけ、閉ざされた扉をこじあけるほうが難しい。

 次回は飲食店のオーナーにお願いしている。食の仕事は、不況に強い。これらのキャリア教育をまとめて、この連載でも紹介する予定だ。

「仕事を作る」という選択肢を知ってほしい

 子ども達の知っている職業の数は少ない。親と学校の教職員と、あとは日常生活で接する人の職業か、テレビで知るぐらいだからだ。実感を持って知っている仕事となると、ごく少ないだろう。それだけに、学校が与える情報の責任は大きい。私は必ず「自分で仕事や会社を作る」選択肢を持たせたいと考えて、一連の授業をプロデュースしている。

 ビジネスは、世の中の課題を解決する力がある。本が近所の本屋で見つからない人のために、Amazonはネット上に本屋を作った。店員のおすすめの代わりに、レビュー機能をつけた。進化したネット書店は、町の本屋をつぶした。では、どんな本屋ならわざわざ足を運ぶ価値が出るだろうか。絵本に特化したり、イベントを売りにしたりする書店がある。時代の変化に合わせて、仕事を作れる人になってほしい。組織の中であっても、フリーランスであっても。

土曜授業で「敷津インターナショナルデイ」を行い、外国人児童の保護者やタイの留学生などに来てもらった。グローバルな視点を身につけることも、将来の職業選択の幅を広げる
土曜授業で「敷津インターナショナルデイ」を行い、外国人児童の保護者やタイの留学生などに来てもらった。グローバルな視点を身につけることも、将来の職業選択の幅を広げる

 決して、会社を自分で作るばかりが選択肢でもない。今は上場したかつての会社の同期と飲みに行き、「今、800万の予算のプロジェクトを任されていて」と聞いた時、かなわない、と思った。個人事業主の私には、簡単に用意できない金額。大きな組織の中で企画を立て、人を説得して仕事を作り出す人もいる。それも魅力的だ。

 いずれにしても、「仕事を作る」という発想を持っていて損はない。研修ではいつも言っていた。「愚痴を提案に変えよう!」と。校長になって3年、教職員の愚痴を拾い上げては前例の無い解決策を様々考えてきた。叶ったものもあれば、解決途中の案件もある。来年度に向けて動いているものもある。本音を言えば、この学校で校長を続けたい。でも、無理な時にこそ、また知恵が出る。

 逆境で本当に役立つのは、強さではなく、やわらかさ。

 強気で壁にぶち当たってばかりいた会社員時代、最初のビジネスモデルに固執して大失敗をした創業時代を経ての実感だ。