「今までのキャリアを生かせば、フリーで仕事をしたり、起業したりすることだって夢ではないかもしれない……」。そんなDUAL読者の“夢”にお応えするため、「ママ起業」を特集します。実際に会社員から起業という選択をした4人のママを取材しました。今回は「都会から地方に戻って起業した」パターンに焦点を当てます。専門家から、ママが地方で起業するときの注意点も詳しく教えていただきました。第3回の今回は、東京の企業で勤務した後、故郷の岩手県にUターンして起業し、様々な業態にチャレンジするママのお話です。

【“地方起業ママ”になる掟・特集】
第1回 ママならではのマーケティング ヨガ教室で成功
第2回 沖縄に移住 両立の方法を見出したコンサル・ママ
第3回 東京から岩手へ 夢を語って人を動かす起業家ママ ←今回はココ
第4回 「人の役に立ちたい」と静岡で起業 離婚して東京へ
第5回 男性は“戦う起業”、ママは“育む起業”

 岩手県花巻市にある株式会社惣兵衛(そうべえ)。同社は、ウェブデザイン・ウェブコンサルティング、無農薬米のネット販売、マクロビオティック・カフェの経営など、「一見関連性のないように思える異業種の事業」を展開しています。

 代表取締役を務めるのは畠山さゆりさん(51歳)。東京での会社員時代は、事務職や秘書を務めていましたが、故郷の岩手に帰って経営者となりました。業種の異なる事業を、どのようにして次々と成功させていったのでしょうか?

東京で暮らしたからこそ、地元の魅力に気づくことができた

株式会社惣兵衛代表取締役・畠山さゆりさん
株式会社惣兵衛代表取締役・畠山さゆりさん

 岩手県花巻市の稲作農家の二女として生まれた畠山さんは、地元の高校を卒業後、上京。専門学校卒業後は京セラや外資系企業に勤務し、結婚して2児の母となりました。転機が訪れたのは、32歳のとき。父の死をきっかけに、一家4人、無職で岩手にUターンしたのです。

 上京した当初は、花巻に帰る気は全くなかったという畠山さん。しかし、このとき、Uターンに前向きになっていました。子どもを授かって以来、食を育む農業の尊さや、自然豊かな故郷の素晴らしさに気づいたからだといいます。

 「体の中で細胞分裂が起こり、人の体が出来上がっていくわけですよ。その源になっているのが栄養分であり、栄養を共有する食べ物を、私の実家は育てているんだ、人間の生命の根幹を支える仕事なんだ、と。都会ではお金をかけなければ手に入らない安全な食べ物が、ここでは簡単に手に入る。その豊かさを実感しました。『青い鳥はここにいた!』という感じです」

 埼玉県出身の旦那さんは「お義母さんが広い家で一人暮らしはかわいそうだから、帰ってあげよう。岩手はスキーもゴルフ場も温泉もあっていいところ」と言ってくれたそう。「気が変わらないうちにさっさと引っ越してまいりました」

 畠山さんは故郷に戻り、ようやく地に足がついたと喜びを感じていました。しかし同時に、地元の人との温度差を感じていました。

 「遅まきながら農業の素晴らしさに気づいた私ですが、肝心の農家の人が元気がないように感じました。長年、同じ場所で暮らしていて、よそからの評価を受ける機会がないせいもあり、自分達の価値に気づいていないんですね。『私がすべきことは、愛する地元の魅力を、ネットで発信することだ!』と気づいたんです」

 当時は1996年。ヤフー株式会社が設立された年でもあり、インターネットは黎明期でした。そんな時代にあって、畠山さんは独学でホームページの制作に乗り出したのです。外資系企業に勤務していた時代、既にチャットやメールを使っていたことから、この発想に結びついたのでした。

 自作のホームページでは、家族構成や米作りへの思いを紹介するとともに、「農業を体験しに来て!」と呼びかけました。いわゆるグリーンツーリズムの先駆けです。老若男女、外国人など、延べ50人ほどが体験にやってきました。「農業とITの融合」が話題となり、テレビや雑誌の取材が押し寄せました。