前例がないという人間は、200年経っても前例がない

田辺 まず体制を整えました。今まで、保育園は保健福祉局が、幼稚園は教育委員会が管轄でした。管轄が分かれていては移行に支障が出ると思い、子ども未来局を新たに作り、教育委員会で幼稚園の関係をやっていた職員を連れてくるなど、子ども未来局、教育委員会の双方が協力できる体制にしました。国との連携も必要ということで、厚労省からも若手のキャリアを引っ張ってきました。そのうえで、幼稚園・保育園という現場の説得を進めていきました。

羽生 まずは体制から整えたのですね。きっと色々な意見があり、現場をまとめるのも大変だったと思います。コツはありましたか。

田辺 トップの「やるぞ」という決心と、ビジョンを打ち出すようにしていました。道なきところに道を作らなければならない。相当な馬力が必要です。

 よく「時期尚早と言う人間は、100年経っても時期尚早と言う」「前例がないと言う人間は、200年経っても前例がないと言う」。どんな組織でも1割くらいはそういう立場の方がいますが、役所は少し多いかもしれません(笑)。幼児期は親の就労や状況にかかわらず、地域で誰にも等しくきちっとした教育・保育のサービスを提供していくというビジョンです。

羽生 他にもトップのご決意で、新たにスタートされた珍しい取り組みはありますか?

田辺 利用者目線を大切にして、「待機児童園」という静岡市独自の取り組みも進めました。今3カ所に施設があり150人くらいの定員があります。年度途中に育休期間が終わってしまい、職場復帰しなければならない場合など、優先度の高い児童を受け入れています。本当は待機児童が解消されることがベストなのですが、完全に解消されるまでの間は並行して運営していきます。利用者からは「ここがなければ働けなかった。本当に助かった」という声も届いています。

平松以津子子ども未来局長 静岡市は市立保育園が47園とかなりの数がありました。保育士も1500人くらいいます。待機児童は年度途中に増えてきますが、経済的な面から、私立園では年度当初からは保育士は確保できない。待機児童園なら、多くの市立園にいる保育士を、少しずつ融通しながら配置する、ということができる。少なくなった分は大至急募集をかけていく、など。希望する園の空きが出るまで待機児童園にいることができます。