明るいブルー地に赤い花柄のワンピースでインタビュー会場に登場した久野美穂さん。コマーシャル制作会社でプロデューサーとして働きつつ、6歳の男の子を育てているシングルマザーです。

「息子が7得点とミラクルな活躍をしたサッカーの試合で1秒もビデオカメラを回せなかった」、「引っ越し直後に家具を買いにホームセンターに行ったはずが、トイプードルの子犬を連れて帰ってきてしまった」など、次々と繰り出される面白エピソードに耳を傾けていると、彼女ががん患者であることをつい忘れてしまいそうになります。

久野さんは2013年2月に乳がんと診断され、翌年には骨転移も認められました。手術や治療を乗り越え、2015年に復職した今も、がんは骨にすみついています。その久野さんに、がんと生きること、仕事のこと、そして大切な家族のことを聞きました。前編では、3年前に乳がんと宣告されたときから復職するまでを中心に話を伺います。

 

がんでも元気な人もいると知ってもらいたい

久野美穂さん
久野美穂さん

日経DUAL編集部 こうしてお会いしていると、なんというか、普通に元気そうですよね。

久野美穂さん(以下、敬称略) そうですね。2015年に復職してから一緒に仕事をしていた人達にも、後から「実は……」とカミングアウトして、すごく驚かれました。昨夏ごろからは5センチくらいのヒールも時折履くようになったんです。きっと反動でしょうね。髪の毛もなくて、おしゃれもできなくて、ずっとペタンコ靴を履いていた3年間の反動で、「せっかく生きているのなら、もっとおしゃれして楽しみたい」という気持ちが出てきたのです。

 とはいえ、いつもはもう少しメークもナチュラルで服装も地味めなのですが、今日はあえて華やかな色のワンピースで来ました。私はがんだけれど、がん患者でもこんなに元気な人がいるんだよということをなるべく多くの人に知ってもらいたいと思っているからです。

―― それだけきれいに髪も伸びるということは、希望が持てますよね。

久野 私ももっとチリチリのままかと思っていました。乳がんの治療で使う抗がん剤は副作用で髪の毛が抜けてしまいます。髪は再び生えてくるのですが髪質が変わってしまうという話をたくさん聞いていて、確かに最初に生えてきたときは火であぶったみたいにチリチリの髪だったんです。でも、今は普通になりました。

「出産した女性は乳がんにならない」と思っていた

―― 少し時計の針を巻き戻して、3年前に最初にがんと診断されたときのことからお話いただけますか?

久野 私、出産した人は乳がんにはならないと思い込んでいたんです。でも、2012年の夏、しこりに気づいて……。自分で触診したときに、なんとなく米粒のようなものが指に当たるな、と思っていた。子どもが3歳のときです。

 ですが当時、仕事が殺人的に忙しくて、会社経由で申し込んであった乳がん検診の日も打ち合わせが入って間に合わなくなり、「まあいいか」と放っておいたのです。そうしたら、半年後に高熱が出て3日間くらい、熱が下がらなくなって……。しかも、おっぱいを触ると熱くて、ものすごく痛い。刺すような痛みでしたので、きっと乳腺炎だろうと思い、近所の乳腺外科の専門医のところに行きました。

 そうしたら先生が触った瞬間、「これは悪性だな」とおっしゃったんです。