重松 きっかけの一つは、2011年の震災でした。物事が止まってしまい、仕事がなくなってしまった。働き方を変えなければ、会社が危機的状況に陥ってしまうかもしれない――。そんなことをうっすらと感じたのです。タイミング悪く、あの時期はたまたまたくさん人を採用していました。

 当時は、自分の中の「意識の変化」に気づいていたわけではなかったのですが、今思い返してみると様々なことが積み重なったうえで、あのタイミングをきっかけに方向づけられたのだと明言できます。

―― 確かに、働き方を見直したきっかけとして、2011年の震災を挙げる経営者さんは少なくありません。御社の場合、変化の背景には、主婦の方が残業をせずに実績を上げている姿がありました。主婦の皆さんはどのように活躍されていたのでしょうか?

月に1日、子どもの看病で帰っても、残りの19日間頑張ってくれればそれでいい

重松 特定の誰かが明確なターニングポイントになっているわけではありません。会社を始めて1年目に採用した社員で、仕事ができる主婦の方がいました。その方は残念ながら家業を継がなければならず、お互いに泣く泣く辞めてもらったのですが、そのときは別に「主婦がいいな」という確信には至っていませんでした。その後、NHKの取材を受けたときも、主婦社員が2人いて、やはりなかなか仕事ができた。そして現在のスタッフが増えてきて、少しずつ“主婦の実力”に気付いていったのです。

 私達のような中小企業では、“いい人”を採用することは極めて難しいのです。高い給料を払ってあげられるわけでもなく、多様な仕事をこなしてもらわなくてはならないので、何か特定の仕事スキルを磨いたり、専門的なキャリアをつくってあげられるかは分からない。そんな中で「いい人を採用しよう」と思ったら、需要と供給の関係から主婦の方に入っていただくのが最適でした。

 世間一般的に見ると、主婦の方に対して、「子どもの発熱などで、仕事に穴を開けられる不安がある」といった悪い評価が多いのが気になります。しかし、子どもは毎日熱を出すわけではありません。たとえ月に1回、子どもの看病で帰ることになっても、それ以外の19日間しっかり働いてくれるのであれば、そのほうがメリットは大きいのです。

 そういうことを踏まえているからこそ、私は、社員の子どもが発熱した場合には問答無用で帰宅させています。誰しも、子どもが発熱したときには「そばにいてあげたい」と思うものでしょうし、その気持ちに応えることが結果的に会社の仕事に還元されるものだと思っています。

―― 積極的な社員のケアが、やる気を生み出しているのですね。そういうときに、仕事の穴を埋めるために用意された「ペア制度」について教えてください。

旅館総合研究所のオフィス
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