子育てや家事を一手に担う「専業主婦」が生まれたワケ

瀬地山 男女の性役割分業自体は古くからありますが、特に母性というものが強調され、子育てのほとんどを母親が担うようになったのは、日本では実は大正時代からなんです。

 1910年代に大都市部を中心に、男性が企業で一定の月給をもらって働く「サラリーマン」が誕生したわけですが、それと同時に家計を預かる「主婦」も誕生しました。それが戦後の高度成長期の中で日本全国に広がっていき、男性が会社員として働き、女性は専業主婦として家を守るというシステムが定着していきました。

hitomi 「専業主婦」というあり方は、もともと大正時代に生まれたんですね。 

瀬地山 そうなんです。日本の歴史で見ると、たかだか100年前くらいのことなんですね。1899年に高等女学校令が出されましたが、その教育理念がまさに「良妻賢母」というものでした。「女性が教育を受けないと、母親として次世代の良質な国民を育てることができない」という考えから、高等女学校が次々と作られたわけですけれども、「そもそも女子教育は必要ない」という時代の中では、非常に近代的な発想ともいえるものだったんですね。

 でも、その良妻賢母主義が、サラリーマンの夫を支え、家事・子育てに専念する「専業主婦」を形成するイデオロギーとなり、それが男女の本来あるべき姿だといまだ誤解しているのが、今の日本の状況ではないでしょうか。

hitomi 「子育ては母親がすべきものだ」という考え方は、そうした時代背景から生まれていて、現代でも少なからず引きずっているんですね。

 実は私が子どものころ、父と母が度々ケンカをしていたんです。父が母に対して「もっと母親らしくしろよ!」と言うと、母は「男なんだからもっと稼いできなさいよ!」と言い返していて。

 結局、お互いかみ合わずに離婚してしまったんですが、そのとき、子どもながらに思ったのが「私は経済的に男性に頼らないで自立して生きたい!」ってことだったんですね。若いころなんて「男の人に何か買ってもらうなんてあり得ない」と意固地になってましたから。今はもうそんなことはないんですけど、当時の体験は今も考え方の根底にあるかもしれません。

瀬地山 そうでしたか。経済的な自立はお互いにとって精神的な安定につながりますからね。実は僕、29歳まで学生だったんですけど、当時同棲していた相手から「出ていけ!」と言われたことがありました。その晩に泊まるホテル代を持っていない自分がものすごく情けなかった。すごく悔しくて「やっぱり経済的に自立せなあかん!」と痛感しましたよ。

hitomi 先生にそんなご経験があったとは! 男性(夫)にしても女性(妻)にしても、家庭の中でどちらか一方だけが金銭面のすべてを担うのは、お互いにとって精神的な負担や不満を生むもとになるんだろうなと思いますね。