子育てから仕事から夫婦関係から社会問題まで、働く母とはなんと多くの顔を持って生きていることだろう。最愛の息子を育てながら小説家として活躍する川上未映子さんが、素敵も嘆きもぜんぶ詰め込んだ日々を全16回にわたりDUAL読者にお届けします。第5回のテーマは、「2歳児の育児」についてです。

 何事も、教わらないとわからないことってあるよなあ、子育てはとくにそうかもしれないなあ、あのときちゃんと話を聞くことができてよかったなあ……なんて今日もフレシネを飲んで考えた。

 息子は3歳8カ月。おしゃべりもすさまじく、こちらの言うこともほぼ理解できるようになり、最近は色々と話が早い。好みもあれこれはっきりしてきて、さらにはどこで覚えてきたのかというような言葉も連発するようになり、やっと、やっと、「一方的にお世話をする対象」からおなじ側にいる、メンバー然としてきた感じがある。

 ただ息をしているだけの時代、おむつ時代や、離乳食時代には、ひとりで用を足したり食事をしたりするようになるなんて、本当に信じられなかった。いずれはそうなるのだということは頭ではわかっていても、それでも信じられなかった。何がどうなったらこの頼りない生き物がそんなふうに変化するんだろう……でも、なった。幸いなことに事故にも遭わず、大きな病気にかかることもなく、ここまでなんとか大きくなった。うう、本当にありがたいことである。

息子2歳時代、過酷な子育てに思いつめた

 3歳というのはやっぱりどこか節目でもあって、今と比べると2歳時代はやはり相当、過酷だったように思えてしまう。ひとり育ててるだけで過酷なんて大げさな……と思われるかもしれませんが、人にはそれぞれキャパがあって、個人的には「わたし、このさき子育て継続していけるんかな」と真剣に思いつめることが、2歳の頃は本当によくあったのだ。

 仕事との兼ね合いもあるけれど、毎晩必至の夜泣きとか(うちは生まれてから2歳2カ月まで激しい夜泣きしていた)、イヤイヤ期とか(雨のなか1時間半とか踏切で電車を見させられるとか)、いわゆる「魔の2歳児」と呼ばれる一般的なしんどさもふつうにあったのだけれど、いちばん大変だったのは、「かんしゃく」にまつわることだったかもしれない。