どろんこ保育園というからには、もちろん子ども達はどろんこになって遊べる環境にある。1階の幼児の部屋は大きく広い縁側があり、そこからすぐに園庭に出られる。子ども達は常にはだし。園庭にもはだしで出て遊ぶ。外と中の境は、子ども達にはないも同然だ

 縁側には水道場があり、足を洗うためのタライも常に用意してあるので、子ども達は自然に外と縁側をほいほいと行き来していた。訪れたのは、初冬に差しかかろうという日だったが、夏には水遊びも兼ねて園庭でどろんこになって遊ぶのだそうだ。

縁側と園庭の間には水を張ったタライが常にある。子ども達はさっと洗って出入りする
縁側と園庭の間には水を張ったタライが常にある。子ども達はさっと洗って出入りする

 もちろん冬でも外で毎日遊ぶ。公園に行くには靴を履いて出かけるが、片道40分くらいかかる公園にも歩いて出かけるほど子ども達の足腰はしっかりし、歩くことに慣れているという。週に一度は商店街を歩き、店先で仕事ぶりを見せてもらったり野菜の説明をしてもらったりするという。

 足腰を鍛え、集中力を高めるためにも、毎朝雑巾がけと座禅が行われる。「座禅といっても、小さい子達は椅子に座って目をつぶって1分程度。大事なのは形よりも短い時間でも瞑想することで集中力を高めて、メリハリをつけることが学べればいいと思うんです。気持ちよく朝が始められますよね」と小野園長先生。

1、2歳が中心の乳児の部屋は2階。仕切ることもできるが、普段は異年齢で自由に過ごせるように広く使っている。太陽が入る明るいつくり
1、2歳が中心の乳児の部屋は2階。仕切ることもできるが、普段は異年齢で自由に過ごせるように広く使っている。太陽が入る明るいつくり

 4、5歳くらいになってくると座禅の仕方も教えたり、様々な行事や取り組みも振り返りを行って話し合う。冒頭の魚の解体ショーも、すべてが終わった後に先生が幼児クラスの子達に、生きていた魚をいただくとはどういうことなのかを、ゆっくりと言い聞かせていた。

五穀と共に育つ子ども達

 小野園長先生は、実は福祉関係の元公務員。50代半ば、少し先に見えてきた退職後の第二の人生を考えたとき、将来を担う子ども達を育てていくことに関わりたいと早期退職を決めて、どろんこ会に加わった。

 「持っていた保育士の資格を生かしたいと思っていましたが、色々探している中でどろんこ会を知り、その方針に共感しました。子ども達が将来生きていく中で根本となるような食や自然への感謝や、どろんこで友達と遊んだ体験などができる経験は貴重です。早期退職して保育に入るなんて最初は家族も反対しましたが、第二の人生を子ども達のために使いたいのです」と話してくれた。

1階の部屋は3~5歳の幼児が中心。広い縁側からすぐに園庭に出られて、外と内の空間がつながって感じられる
1階の部屋は3~5歳の幼児が中心。広い縁側からすぐに園庭に出られて、外と内の空間がつながって感じられる

 現在、約80人の子どもが通っている。クラスの名前は、0歳から「あわ」「ひえ」「あずき」「だいず」「むぎ」「こめ」と五穀の名前を使い、成長を表している。基本的には、1歳、1~2歳、3~5歳と大きな枠組みの異年齢保育を行っている。

 保育料は、認可保育園のため自治体の規定に準じている。申し込みも自治体に行うため、もちろん中にはどろんこで遊ぶ保育園だと知らずに入れる保護者も一部はいるという。しかし、先生達はその意図と取り組みを丁寧に話し、徐々に理解していってもらえているという。見学者は、申し込みが始まる前の8、9月ごろから増えてくるというが、特徴ある保育に納得してもらうためにも1家族30分以上かけて話をすることもあるという。

保育園の玄関には着なくなった服などを入れられるかごが常に置いてあり、保護者間で譲り合えるようになっている
保育園の玄関には着なくなった服などを入れられるかごが常に置いてあり、保護者間で譲り合えるようになっている

 今では首都圏を中心に20園以上に展開しているどろんこ会の保育園だが、創業者の安永愛香さんは「預けたいと思える保育園が見つからない」と悩んでいた一人の働くママだった。

 基本の保育時間は7時から19時。延長保育が19時からという比較的遅い時間なのは、創業者のワーキングママとしての経験から。夕飯の買い物をしてからお迎えに行くのはタブーだとよくいわれるが、ここでは買い物をしてからのお迎えもOK。仕事帰りにヘトヘトな中、小さな子を抱えて駆け足で買い物をすることがいかに大変か、分かっているからだ。親の負担を少しでも軽減するためにと、月曜朝によくある光景の親の布団カバーかけも、ここでは先生や幼児本人が行うことになっている。

 子どもが心置きなくどろんこで遊び、自然について学べる環境がほしいとスタートした保育園が、共感を呼び全国に広まりつつある。育てたいのは「にんげん力」。20年後には、泥だらけになり、ヤギと育った子ども時代を持つ大人は珍しくなるかもしれない。

ヤギと一緒にランチタイム。はだしで園庭で食べるお昼は、また格別の味
ヤギと一緒にランチタイム。はだしで園庭で食べるお昼は、また格別の味

DATA
板橋仲町どろんこ保育園
東京都板橋区仲町16-10
Tel:03-5964-6460

(文・写真/岩辺みどり)