ヤギを通して学ぶ命の大切さ

 もちろん食育で扱っているのは魚だけではない。新潟の魚沼に畑があり、保育園のお米は自給自足で一年通してそこで育ったものを食べている。年に2回、田植えや稲刈りに3~5歳児の幼児達の希望者が泊まりがけで出かけていく。どろんこ会の他のいくつかの保育園と合同イベントだが、保護者はなく子ども達だけの初めての宿泊体験でもある。子ども達に本物の体験をさせたいと、スタッフ総出で行う行事の一つだ。

 園庭にはヤギがいる。みんなで世話をしたり乳を搾ったりする。都内の保育園でヤギを飼うのは、羨ましいが難しい背景もあったのではないかと思い、聞いてみた。

 「住宅街の保育園でヤギを飼うには、近隣の方の理解が必須でした。説明をしてあちこち回り、匂いや鳴き声など心配されましたが、どちらも実はたいしてないんです。今では『ヤギがいるなんて懐かしいわね~』と言って近所の人が立ち寄ってくれたり、わざわざ野菜を餌にと持ってきてくださったりと、近隣の方とのコミュニケーションのきっかけにもなっています」

昼食用のテーブルを運ぶのは、ヤギ達にも見慣れた風景だ
昼食用のテーブルを運ぶのは、ヤギ達にも見慣れた風景だ

 取材中にも、車椅子に乗ったご婦人と介護している方が立ち止まり、道側からヤギに声をかけたり、子ども達の様子をほほ笑んで見つめたりしていた。そこから子どもが手を振ったりして、緩やかな交流が生まれる。

 ヤギを飼っているのは交流のためだけではない。

 「ヤギの寿命は一般的に5~10年といわれています。そうすると、乳児から保育園に通っている子ども達は在園中にヤギの死とも向き合う可能性があります。命あるものが育ち、死んでいくということを体験していく機会でもあるんです」と、案内してくれたどろんこ会広報担当者は話してくれた。

 都心の園では難しいが、どろんこ会の保育園の中には、鶏を飼っていたり、畑や田んぼを併設したりしている園もある。

 この板橋仲町どろんこ保育園でも、水菜やイチゴなど様々な野菜や植物を年間通して子ども達と一緒に育てている。

 ブッフェ方式で食べる給食も、雨が降っていなければ園庭にテーブルを出して食べることもできる。指示をされなくても、子ども達は自らテーブルを運び、自分で食べる分だけよそっていく。その様子を、すぐそばでヤギがもぐもぐと草を食べながら見つめている。こぼすこともなく、大事に味噌汁を抱えて、はだしで縁側を歩いていく子どもの姿がほほ笑ましかった。

自分で上手に味噌汁をよそう子ども達
自分で上手に味噌汁をよそう子ども達