子どもには体に良いものをしっかり食べてほしい

――千恵さんからはなちゃんへの、「ちゃんと作って、ちゃんと食べる」「食べることは生きること」という大切な約束は、『はなちゃんのみそ汁』の最も大事なテーマですよね。この部分には、監督はどのような思いを込められたのでしょうか?

「千恵さんは、最後まで生きることを諦めずに、もうろうとしていても、必死に食べ物を口に入れようとしていたそうなんです。良くなろうと思って。はなちゃんには健康で生きてほしくて、体に良いものをしっかり食べてほしいと願っていた千恵さんの意に即した映画にしたいと思いました。しっかり食べて、健康に生きることで幸せになれる。それを映画全般を通して伝わるようにしようと思って作りました」

――幼い子どもを置いて旅立つというのは、とてもつらいことですが、千恵さんは闘病でつらくても、前向きに、はなちゃんに何がのこせるかを一番に考えていました。親から子どもに大切なことを伝える、のこすということについて、監督は『はなちゃんのみそ汁』を通して、どのようにお考えになりましたでしょうか?

「のこすものとは、一過性のものではなく、子どもが人生の中でかんで飲み込んでいくものだと思います。僕は娘に『こういうものを作ったよ』と言えるものをのこしたいという思いもあり、『はなちゃんのみそ汁』を撮りました。娘にクドクドと説明するのではなく、娘が何かを感じてくれたらいいなぁと。そして、娘に子どもができたときに、また一緒に見てくれたらうれしいです。本作のキャストやスタッフは、ほとんどみんな、この映画から子どもに伝えたい思いを感じながら、撮影に臨んだのではないかと思いますね」

――どうもありがとうございます。それでは最後に、日経DUALの読者に『はなちゃんのみそ汁』からどんなことを感じてほしいか、監督からメッセージをいただけますでしょうか。

「家族で過ごす時間、一緒にいる時間は、すごく大切な時間であるということを考えてほしいです。家族といる時間って、人生の中で半分くらいなのかもしれない。それでも、家族と過ごした時間や思い出さえあれば、生きていくうえで強い精神を育んでくれると思うんです。つらいことがあったときに、家族とこんなことがあった、あんなことがあったと思い出すだけで、切り抜けられる。それで、生きていけるんじゃないでしょうか。千恵さんは、はなちゃんに対して生きる力を与えただけではなく、その思いが広がって、今は多くの人に生きる力を与えています。この映画を通して、彼女の伝えようとした思いを受け止め、家族といる時間の大切さが伝わったらうれしいです。そして家族で、こんなことがあった、あんなことがあったと語り合ってほしいと思います」

(文/清水久美子 写真/杉 映貴子)

阿久根知昭(監督・脚本)

阿久根知昭(監督・脚本)

1966年生まれ、福岡県出身。福岡を中心に舞台の作・演出や脚本家として活動。原作・脚本・演出として参加した、2006年のラジオドラマ『月のしらべと陽のひびき』(FM福岡)にて、日本放送文化大賞ラジオ部門準グランプリを受賞。2008年の『聞こえない声』(FM福岡)では、ギャラクシー賞ラジオ部門大賞ほか多数の賞を受賞。そのほか、TVCM構成、舞台演出作品など多数担当。2013年、キネマ旬報ベストテン・日本映画第一位に輝いた『ペコロスの母に会いに行く』の脚本を担当。『はなちゃんのみそ汁』が映画監督初作品となる。