こんにちは、治部れんげです。11月上旬、資生堂の美容部員に対する人材戦略が話題になりました。子育て中の時短社員も会社の判断で、夜間・休日勤務をしてもらう――。これまで「女性に優しい会社」として、手厚い育児支援制度を他社に先駆けて提供してきた企業の変化は、驚きをもって迎えられました。今回はこの出来事をテーマに考えていきます。

資生堂の人材戦略。女性活用のためには朗報

画像はイメージです
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 本稿の目的は、資生堂の人材戦略を批判することではないことを、最初に記しておきたいと思います。この問題は、経済的な視点と社会的な視点の両方から考えるべきであり、日本の大企業の「女性活用」の根本を問うものだと認識しています。従って「~~ショック」と呼んで一企業の問題として捉えるのはそもそもおかしいのです。

 ニュースの直後に出た反応は感情的なものが多く、それらは「お母さんがかわいそう」「ひどい」といったものでした。批判を恐れず言えば、私は「そんなことを言っているから、女性活用が中途半端になるんだ」と感じました。

 私達は働いて報酬をもらいます。そこには労働者が提供する価値があり、それと交換して得られる報酬があります。期待されている仕事と受け取る報酬の関係は明確であるべきですが、多くの職場では曖昧なままです。皆がそろって遅くまで職場に残っているなら、曖昧さを残しておいても支障はありませんでした。

 近年、子育て中の女性が職場に復帰してくるようになりました。保育園のお迎えに間に合うよう、夕方早い時刻に退社する女性達は、時短勤務の制度を使います。それにより、夜間・休日に顧客対応が求められる職場では、育児社員をカバーする周囲から不満の声が上がることも珍しくありません。今回の事例では、“売り上げ減”という形でビジネスに影響が出てきたために、人の配置を経営目線で行うことになったというわけです。

 経済的な視点から言えば、これは、ごく当たり前なことに映ります。

働き方は、仕事の内容や責任の持ち方、得られる報酬によって異なる

 私も会社員時代、締め切り時期には夜何時に帰れるか分からないことがありました。夫婦で共有しているカレンダーに「締め切り、帰宅時刻不明、お迎えお願い」と記しておくと、その期間は夫が子どものお迎えに行っていました。出産前より大幅に減らしたものの、夕刻以降や休日に取材などで仕事をすることもありました。

 こういう働き方を当然と思えたのは、私がもらっていたお給料が世間の相場より多かったことも大きいでしょう。当時は「基本給+みなし残業代」をもらっており、みなし残業代は基本給の6割。9時~17時で働く場合の1.6倍もらっているのだから、仕事は17時に終わらなくても当然。早く帰る場合でも、仕事を持ち帰り、夜、子どもが寝た後に起きて作業するのも当然だと思っていました。

 これは自分の仕事が何なのか、自分は何に責任を持つのか、その結果、得られる報酬がどういうものか、出産前から身に染みて分かっていたからできたことです。新入社員のとき、来客にお茶を出そうとしたら、先輩に言われたことを覚えています。「君のお給料は高いんだから、そういう仕事は期待されてない。頭を使って、面白い企画を出すんだ」と。

 みなし残業代の金額を考えれば、送迎を夫婦で分担することも、締め切り時期には夫に迎えを頼むことも、共働き子育てを続けるために家事外注を頼むのも当然でした。これらは、経済の論理です。