ママ弁護士が提唱する「育児コアタイム」とは?

労働問題に注力してきた弁護士の圷由美子さん
労働問題に注力してきた弁護士の圷由美子さん

 「名ばかり店長事件」など、これまで15年間、労働問題に注力してきた弁護士の圷(あくつ)由美子さんは、生活者の目線から「育児コアタイム」を提唱しています。お迎えから寝かしつけまでのおおむね18時~22時を「育児コアタイム」とし、この時間帯の就労免除など一定の配慮を義務付けるルール設定を求めています。

 18時~22時を育児コアタイムと設定しているのは、「22時以降ならば就労してもよい」ということを意味するわけではありません。

 「そもそも労働基準法において、22時~5時の労働は『深夜労働』とされています。育児・介護休業法によれば、子どもが小学校に入るまでの子どもを養育する労働者は、深夜労働の免除を請求すれば就労禁止となります」(圷さん)

 「しかし、育児中の労働者の18時~22時の残業を免除する法律はない。つまり、その時間帯に保育園に迎えに行き、子どもの保育に当たるべき“育児時間”は、現行の法律では守られていないのです。もし6時間の時短勤務をしている社員が、企業から14~21時の就労を求められた場合、保育園のお迎えにも間に合わず、寝かしつけも誰かにお願いしなければなりません。そして、限られた給料の中から、シッター代を捻出せざるを得なくなるわけです」(圷さん)

 「育児と両立するために時短勤務制度を利用しても、職場で遅番をすることが多くなり、結局お迎えに間に合わず退社を余儀なくされてしまう――。私はそういう方をこれまで何人も見てきました」。圷さんは、全労働者の「生活コアタイム」確保を出発点と位置付けています。

 圷さん自身、2人の子育て中のお母さんで、お迎えから寝かしつけまでしながら、重大事件に取り組んできました。「どんなステージにいても、生き生きと、人間らしく働き続けられる職場改革」を目指し、マタハラNet立ち上げから、その支援などに奔走してきた背景には、深夜に及ぶ長時間労働が当たり前であるという日本の職場風土に「コアタイム」という新発想を導入して、大転換を図りたいとの思いがあります。

 私自身、ある程度の夜間労働、特定時期の長時間労働は、キャリア志向なら仕方ないと思っていました。けれど、これから増えていく、子育てや介護、看護をしながら働く人達が、真に能力を発揮できる組織をつくるためには「仕方ない」ではダメでしょう。

根本的に必要なのは、私達の消費行動を変えること

 「企業は冷たい」「経営者は分かってない」と批判するだけでは、現状は変えられません。根本的に必要なのは、私達の消費行動を変えることができるか否かにかかっている。なぜなら、それは「BtoC企業」のありようを変える力を持っているからです。

 もし、日本全国の百貨店に入っている資生堂が「従業員の家庭生活・私生活充実のため、17時に閉店します」と宣言したとしたらどうでしょう。資生堂が実践している人材戦略を「ショック」と呼んだ人は、夕方に閉まってしまう店を、買い支えることができるか。問われているのは、そういうことではないでしょうか。一つの会社の意思決定に、働く親を取り巻く様々な課題が凝縮されているのです。

(イメージ画像・撮影/鈴木愛子)