神様に頼んで、私の寿命を分け与えてもらう

 お母さんは医師のほうに向き直って、言った。

 「先生にお願いがあります。由香子にする骨髄穿刺検査を私にもしてください。そして、私がその検査をがんばる姿を見たら、由香子も検査をがんばる、と約束させました。お願いします」

 医師らは言葉を失った。このような申し出をした親は、初めてであった。

 それはちょっと……と言いよどむ医師たちに、お母さんはさらに強く言った。

 「私は、由香子がこれから病気と長い闘いをしていかなければならないと覚悟しています。私も、由香子と一緒に、病気と闘いたいのです。そのためには、由香子が引き受けなければならない痛みや辛さを私もできるだけ共有したいのです。気持ちだけでなくて、五感すべてを使って、共有したいのです。お願いします」

 医師らは、お母さんの真剣な表情に、たじろいだ。

 「いや、お母さん。それは無理です。病気でない人に針を刺すということは、治療行為ではないので、傷害罪になるのです。違法行為になります」と医師は困惑しながら答えた。

 「それはわかります。でも、針を刺される側の私が納得しているのです。先生方に迷惑をかけることは絶対にありません。ですから、お願いします。そうすれば、由香子も検査をがんばると言っているんです」

 今度はお母さんを説得しなければならない状態になった。

 「お母さんの気持ちは理解できます。でも、そんな前例はありませんし、それで必ずしも由香子ちゃんの治療がうまく進むとは限りません」と医師はなおも言った。

 お母さんは静かに、しかし毅然と言った。

 「そんなことは関係ありません。私はこの病院に来るまでに、いろいろ考えて、決心したのです。由香子が苦しくてご飯を食べられないときは、私も食べません。由香子が足を切らなければならないときは、私も足を切り落とします。そして、神様に由香子を助けてもらうのです。神様に頼んで、私の寿命を由香子に分け与えてもらうのです


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 その部屋にいたみんなが、お母さんの決意を聞いた後、黙り込んだ。そして、身動きできずに、立ち尽くしていた。その言葉のインパクトを吸収するのに、みんな時間をかけていたとき、ふいに由香子ちゃんが叫んだ。

 「ママ、大丈夫だよ! 由香子、検査がんばるよ! ひとりでがんばれるよ! だから、ママはそんなことをしなくていいよ

 主治医が目を潤ませながら、由香子ちゃんの手を取り、強く握った。そして、こう言った。

 「由香子ちゃん、先生も一緒にがんばるよ。そして、必ず由香子ちゃんを治す。約束するよ。だから、がんばろうね」

 由香子ちゃんがにっこり笑ってうなずいた。お母さんが深々と頭を下げて、由香子ちゃんを残して部屋を出た。由香子ちゃんは、検査の間、痛みに涙を流していたが、廊下で待っている母に泣き声を聞かれないように、必死で声を嚙み殺していた。