幼児期に一番重要なことは教育の内容

―― 日本では出産後に育児をしながら働くことが制度的に難しかったりして、そのために仕事をやめてしまう女性も多いです。アメリカの「ガラスの天井」も日本と同じようなものでしょうか。

学長 アメリカでも家族を支えるような政策は不十分で、そこはこれからもっと要求していかなければいけない点だと考えています。

 日本もアメリカも、女性の活躍に関して先進的な他の国を参照する必要があります。ヨーロッパ、特にスカンジナビアの国々では子どもを育てる環境が整備されています。これは文化的な背景を反映したものだと思うのですが、女性が活躍することのメリットを理解し、家族がきちんと機能しながら社会も成り立っていくシステムが作られてきました。

 女性の力をフルに活用しないということは、才能を埋もれさせ、無駄にしているということ。一国が持っている能力を最大限に生かし切っていない、残念な状況だと思います。

―― 学長は幼児教育の専門家でいらっしゃいます。両親がともに働く家庭に育つ子どもにとってのメリットとデメリットがあれば教えてください。

学長 その分野については随分多くの研究をしてきました。特に乳幼児の時期までさかのぼり、幼児と母親が一緒に過ごす時間と絆の深さを研究課題にしていました。

 1995年ごろ、乳幼児教育専門の国立研究所が行った千人以上の子どもを対象とする大規模な調査に参加しました。その結果、働いている母親の子どもとそうでない母親の子どもとの間で、親子関係にはまったく何の違いも見られませんでした。働く母親にとっての気がかりだと思いますが、全く絆に違いはなかったんです。この研究結果は多くの関心を集め、ニューヨークタイムズ紙の一面の記事になりました。

 幼児期に一番重要なことは教育の内容です。知的環境がちゃんと与えられているか、言語的な働きかけがちゃんとされているかどうか。それらが整った保育園に通っている子ども達は非常に優秀な成績を収めています。

――専門家にそう言ってもらえると、働くお母さん達は本当に安心できると思います。

学長 両親が働く姿を見て育つことはすばらしいことだと私自身は思っています。

 家事代行サービスなどを頼むようにして子ども達との時間を最大限使えるようにするのが望ましいと、若い夫婦にはいつも話しています。