人の意識は制度次第でいくらでも変わる

 3年前、矢満田さんに会ってお話をしたときは、自分達がやることになるとは思ってもみませんでした。当時、娘と同い年だった2歳の女の子が、実親からの虐待で負ったというひどいやけどの写真を見て言葉を失いました。政府の委員活動などで虐待死予防策としての特別養子縁組事業推進を訴えていこうと決意し、実際にこの3年の間に提言を続けてきました。

 しかし、僕が期待するような動きはほとんど見られませんでした。前例がない挑戦は行政は得意ではない。病児保育事業をスタートさせたときの状況に非常に似ています。

 であれば、自分達で実行してみせ、実行可能なモデルケースを作りながら行政を動かしていくしかないと思ったんです。僕達の“勝ちパターン”を応用していこうと。

 具体的には、望まない妊娠に悩む人達に向けた無料相談窓口を設け、電話やLINEなどでアクセスしやすいホットラインを開設します。一方で、養子を望む家庭を募集し、厳しい基準で選定し研修を行う。そして双方の引き合わせをしていくというシンプルな仕組みです(※詳細はこちらから)。

 特別養子縁組制度がもっと広く活用されるようになると、尊い命が守れるだけでなく、40万人ともいわれる不妊で悩む方々の選択枝が広がります。仮に40万人のうちの10%でも特別養子縁組を実行するだけで4万人の子どもが「親」「家庭」という存在を手に入れられる。単純計算にはなりますが、現在施設に入っている子ども達の人数を上回る数です。広い意味で、少子化問題を解決する道筋にもなるでしょう。

 一つのマイルストーンとして見据えているのは5年後の2020年です。首都・東京でスポーツの祭典が行われている年に、赤ちゃんがゴミ箱に捨てられるようなことが起きるという現実は絶対に許せません。「5年以内に制度化」「10年後に赤ちゃんの虐待死ゼロ」を目指して、本気で動きます。

 こんな話をしていると「日本人は血縁意識が高いから難しいんじゃない?」と指摘する声が時々聞こえてきます。

 本当にそうでしょうか。江戸時代の日本では養子なんて当たり前でした。徳川家だって、老舗の○○屋だって、家を絶やさないために積極的に養子制度を活用していました。その時代に、養子を否定する人はいなかったでしょう。人の意識なんて制度次第でいくらでも変わる。僕はそう思っています。