特別養子縁組の事業に乗り出した

 同時に、社会全体をマクロの視点で見ながら「10年後の社会のためにできること」も常に考えています。

 例えば、新たな試みとして来年度から始めるのが「赤ちゃん縁組」、特別養子縁組事業です。

 現在、日本では2週間に1人のペースで、生まれたばかりの赤ちゃんが殺されています。つい先日も、生後16日の赤ちゃんが「泣き声がうるさい」という理由でゴミ箱に入れられて窒息死したという痛ましいニュースが耳に入ってきました。

 なぜこんなことが起きてしまうのか。理由は「望まない妊娠」です。

 貧困や疾病、様々な事情によって産みの親がどうしても育てられない命がある。一方で、赤ちゃんが欲しくても恵まれない家庭もある。赤ちゃんの命を守り、赤ちゃんを望む家庭に託す方法は特別養子縁組といって、1973年の菊田医師事件を発端に、1987年民法改正によって法的に整えられましたが、愛知の児童相談所では矢満田篤二さんにより「愛知方式」として提唱され、1982年より行われてきました。

 望まない妊娠に悩む母親の相談に乗り、子どもを望む育ての親とつないで、出産後に赤ちゃんを託す。跡取りをつくる目的の養子縁組と区別して、戸籍上も家族として機能する仕組みがすでに整っています。

 にもかかわらず、行政と民間がそれぞれ行っている特別養子縁組は2011年で374件。これは保護される子ども達のほんの一部で、児童養護施設で養育されている子ども達は常に3万人ほどいるといわれています。

 行政はどうしても「リスク回避型思考」に傾くため、「より虐待が起こりにくいだろう」という発想で、家庭よりも施設を受け入れ先として推進してしまうのでしょう。結果、「保護される子ども達の9割が施設で育つ」という、先進諸国の中では20~30年遅れている状況が続いています。

 もちろん、施設の職員の方々も愛情を注いで子ども達に寄り添っていると思いますが、できることなら一人ひとりの子どもに「家庭」「親」という関係性を築いてあげるほうがベターなはずです。

 しかし、実際には行政の取り組みだけではとても追い付かず、それを補う形で活動している民間団体も零細組織が大半。もっと多くの子どもが救えるはずなのに。こうしている間にも、また犠牲になる子どもがいる……。そこで、僕達フローレンスも新たな事業として部門を立ち上げることを決心したのです。