32歳で入院。心と体の限界とともに、突然やってきた“暗黒時代”

 高橋さんは二児の母。ベアーズは2歳児と0歳児の乳飲み子を抱えての創業だった。

 不妊治療の末、恵まれた子どもだったにもかかわらず、注射で母乳を止め、断乳。一カ月で仕事に復帰した。あのころの無我夢中の選択を後悔はしていないが、子どもの成長をつぶさに見守れなかったことは「もったいなかった」と振り返る。

 そんな自身の経験もあり、ベアーズの女性社員には一年以上の産休を取ることを奨励している。

 「お母さん自身の心と体が母となるためには時間がかかる。産休とは、そう思った神様が与えてくれた時間なのです。皆焦って復職を志願しますが、弊社の女性社員達には、これからの後輩達が立派に後を追ってママになっていくための“志”に関わる問題だと諭し、産休制度を十分に活用するよう勧めています」

 産休は子どものために取得するべきという向きもあるが、何よりも「心身ともに母親になるための必要な期間」。「これは今だからわかること」と高橋さんは続けた。

 気づきのきっかけとなる出来事が高橋さんを襲った。

 出産後、一カ月で仕事復帰を果たした後、気持ちだけが前に前に動き、頑張りすぎている自分の疲れにさえ気づけなくなったある日。突然、“それ”はやってきた。自律神経のバランスを崩し、パニック障害を併発したのだ。

 「心のバケツが溢れ、体の限界がやってくる。どちらか一つならば、まだ持ちこたえられていたかもしれません。けれど、両方がいっぺんに襲ってきて体が全く動かなくなってしまい、入院を余儀なくされました。『ママ、大丈夫?』と5歳と3歳の子どもが心配そうに声を掛けてくれる。小さな子どもに心配をかけるほど、心を痛ませることはありません。つらい暗黒時代が3年続きました」

 「そんな時期がゆきさんにあったなんて」と驚かれるほど、今では元気な高橋さんだが、このときの経験を経て、「頑張りすぎていることにも気づかない」自分を戒めるため、「何をすべきか」よりも「何をしたらいけないのか」を考えるようになったという。

大事にしている「頑張りすぎない3つの法則」

 その結果、「頑張りすぎない3つの法則」が導き出された。

1) 不調である自分を嫌いにならない
2) 自分の中にあるLOVE(愛する心)を磨き、心のトリートメントを欠かさない
3) 感謝の心で常に前向きに考える体質をつくる

 「私は皆さんに、自分の疲れを知ることは美しいことなのだ、とお伝えしたいんです。どうか頑張りすぎるママの頑張り自慢などと受け取らないでくださいね(笑)」

 「不調な自分を嫌いにならないで、愛してほしい」。この思いは「愛の授業」における「バイオリズムマネジメント」につながっていく。

(取材・文/砂塚美穂、撮影/鈴木愛子)