私達の商品は「愛」

 「家事代行とうたってはいますが、私達の商品は愛だと思っています。家事とは本来、誰かを愛する心から始まるものだからです」

 高橋さんの話は「愛」と「感謝」というキーワードで貫かれている。それはなぜか。

 高橋さんも、創業間もないころ、社員への愛の伝え方や育み方が上手にできずに、社長と自分を除く全社員に退職されてしまったという経験をしている。だからこそ、社員はもちろん、関わる人すべてを愛するだけではんく、きちんと愛が伝わったかを確認する。

 高橋さんは社員研修で「愛って何だと思う? 愛をどう伝える? 愛が伝わったことをどうやって確認する?」と社員やスタッフに問いかけるそうだ。

 社員達は最初こそ照れた顔を見せるが、次第に労使の関係を超え、家族愛、同志愛としてのロイヤルティーが自然と育まれていく。その「覚悟と選択」は事業方針にも搭載され、社員の心に浸透し、愛の風となってお客様に届けられ、ママ達の笑顔へと、つながっていく。

 2015年の売上高は34.5億円。“愛の連鎖”は右肩上がりだ。

「アイアム・ア・マザー」を最強の軸として

 高橋さんご自身の「愛」のパワーの源を尋ねた。

 「アイアム・ア・マザー。このニュートラルポジションほど、自分の心を強くするものはない」

 そんな答えが返ってきた。強い信念と母として得てきた経験すべてが「愛」の源泉となる。

 「子どもが幼少のころのママは、まさしく毎日ががむしゃらかつ無我夢中。私自身も、そういう体験をしてきました。あのころの私は昨日と今日を無理やりパッチワークでつなぎとめているような毎日でした。今日の一日に何を食べたのか、何をしていたのかも思い出せない。いささか記憶があやしいという日々の連続でした」

 「子どもが乳幼児のころなど、眠ることも食事をすることもトイレに行くことも、ままならない。自分の時間などない。諸先輩達から『人が本当に大変な時期というのは、桜が咲いたことも散ったことも、雪が降ったことも、とけたことも思い出せないもの』というアドバイスを私ももらいましたが、本当にその通りでした」

 「あれは確か、娘の運動会でのこと。ティースプーンにピンポン球を乗せて走る競技に参加していた、まさにその瞬間、『あれ? 私、今、娘と走っているの? あれ? いつ、おしめが取れたんだっけ? あれ? いつ、立ち上がったんだっけ? と意識が飛んだくらいですから(笑)」