“あの日の虎”はいずこに。しかし、知恵がついてきたことは確かだ

 それから数週間が経過したが、以来、ウルトラセブンが出現したことは一度もない。それどころか──

 「とら~、ご飯できたから来なさ~い」

 「やだ~」

 「こないと食べちゃうわよ~、一人で食べると寂しいよ~」

 「寂しくない!」

などと反抗的な態度を取って母親の血圧を大幅アップさせるようになった。わたし自身、何気ないやりとりの中でイラッとさせられる場面というのが確実に増えた気もする。とりあえず、“あの日の虎”が出現しそうな気配は、まったく、ない。

 だが、知恵がついてきていることは間違いない。

 先日、シリアスなインタビューの仕事を終えてケータイをチェックすると、ヨメからの浮かれたLINEメールが届いていた。

 「虎が、ママと結婚するって(ハート) きたーっ!」

 ちなみにハートマークとビックリマークは絵文字で、さらにいうと、ヨメがわたしに送ってきたメールで絵文字が添付されていたのは、前後1カ月をチェックしてもそれだけだった。

 よほど嬉しかったらしい。

 しかし、虎はどうするつもりなのだろう。

 その前日、ヨメは泊まり掛けで大阪出張だったため、虎はわたしと二人で留守番だった。一緒に風呂に入り、お気に入りの絵本を3冊ほど読み聞かせると、奴は確かにこういったのだ。

 「たーちゃんね、ママよりもパパのほうがずっとしゅきなの」

 他人からすればただの八方美人、知恵は知恵でも浅知恵にしか思えないだろうが、少なくとも、ヨメはあっさりとノックアウトされた。わたしも、まあ、気分が悪かろうはずもない。

 というわけで、親を操るコツという名の知恵をつけた、最近の虎蔵である。

幼稚園合格発表の翌日、家族で行った「アンパンマンこどもミュージアム」での虎
幼稚園合格発表の翌日、家族で行った「アンパンマンこどもミュージアム」での虎

妻のアトコメ

 私には「パパよりママが好き」とは言わない。虎にとっては、ママはそんなふうに言ってご機嫌をとる必要はない「安全パイ」な人ということなのか。かと思えば、ギューッと私を抱えるようにして、自分の顔を私の顔に近づけながら、「虎、ママのことだーいすき」と言ったりする。

 で、「ママもとらのことすき?」と聞くので、「もちろん大好きだよ」と答えるが、その次にくる質問は、「パパのこともすき?」なのである。「もっもちろんパパのことも好きだよ」と答えると、じーっとこちらの目を見て何やら思わせぶりな表情。

 なっなんだ。何を思ってそんなこと聞くんだ? 両親からの愛情を確かめるのはかわいいものだが、両親同士の愛情を確かめるなんて、3歳児がするのだろうか。二人の仲が微妙に見えたのだろうか。いやいや、虎ちゃん、ご心配なく。嗜好や考え方が違っても、パパとママは仲良くやってますってば。