両親の唯一の共通点は「人見知り」。それなのに、息子は……

 わたしとヨメに共通する数少ない特徴の一つに、「人見知り」というものがある。商売柄、どちらも愛想をよくしていようと心掛けてはいるのだが、基本、二人とも知らない人と話すのは得意ではない。親しげに話すのは、もっと得意ではない。

 ところが、目の前の息子は、本番や大一番に弱く、人見知りの激しい両親のDNAを受け継いでいるはずの3歳児は、見も知らぬ大人たちとの会話を心底楽しんでいるように見えた。

 ちなみに虎が受験したその幼稚園、合格発表は試験当日ということになっていた。午前中に試験を終えた受験者家族は、夕方、再び幼稚園に集まり、そこで全員に封筒が渡される。中身は2種類。合格か不合格か、である。

 我が家に限らず、ほとんどのご両親は子どもをつれて合格発表の場に来ていた。そして、ほとんどの子が、試験のときと同じようにお行儀よく座って発表のときが来るのを待っていた。

 虎、まるでダメ。

 待合室として提供されたのは、普段は教室として使われている部屋だった。当然、絵本やお遊戯の道具がたくさん置いてある。それを目にした途端、虎のスイッチが入った。どんなスイッチかというと、ウルトラセブンをモロボシダンに戻し、もう何があっても変身しませんよというスイッチだった。

 要は、駄々っ子。いつもの虎。

 正直に白状すると、午前中の試験の際、わたしは驚愕しつつ「これなら何があっても落ちることはないだろうな」と思った。親ばかと笑われるかもしれないが、そう思ってしまった。だが、合格発表の場にいるのは、「これじゃどうやったって受かるはずがない」と頭を抱えたくなる、ダメダメな虎だった。

 ま、幸運というしかありません。

 どれほど合格発表の場における振る舞いが0点だったとしても、すでに合否の答えは封筒の中に折り畳まれて入ってしまっていた。どれほど幼稚園側が後悔したとしても、もはや手遅れだった。

 かくして虎、幼稚園合格──。