今は教え子と一緒に仕事をできることが心から楽しい

羽生 今の学校の現場で起きているのはどんなことだと理解されていますか?

白井 “はみ出した子ども”は2種類いるんです。学校の勉強では物足りない子どもと、ついていけない子ども。それぞれに対応が必要です。2種類の“はみ出した子ども”を丁寧にサポートできると、ミドル層も落ち着いてくるんです。私たちは、ついていけない方の子どもをサポートすることが多いので、何かひとつでいいから「これは誰にも負けない」と思えるものを子どもたちと一緒に見つけていくことを、17年やり続けています。会社の中にも「優秀だけど、とっちらかっている人」っていますよね。大人もデコボコしていてそれで社会は回っているのに、子どもたちに対しての見方が厳し過ぎるなとも感じますね。

羽生 親も就学前は「この子の個性を伸ばす!」と思っていても、学校教育が始まって成績がつき出すと心が揺らぐ人が多いのかもしれません。白井さんのように「信じ切る姿勢」が大事なんですね。

白井 親の役割と社会の役割の違いはあると思います。親は厳しく育てていいと思うんです。その代わり、社会がしっかりと受け入れる。不登校になりがちな子どもはそれが逆になっている場合が多くて、社会で受け入れられないから家庭の中で親が子どもに気を使って子どもに甘くなる。結果、ひきこもり状態から余計に抜け出しづらくなる。だから私たちは“第三者”の立場として子どもたちを受け入れるんです。親以上に子どもたちを受け入れるつもりで。

羽生 なるほど。親が唯一の居心地のいい場所になってはいけないと。

白井 だから、自分の子どもを育てながら親として考えているのは、いかに家庭の外で信じられる大人と出会わせていくかということです。その環境づくりが大事だと思っています。

羽生 白井さんの人生時計はいま午後2時くらい(43歳)ですね。これからの目標について教えてください。

白井 最初は批判されながら無我夢中でやっていましたが、“隙間産業”でも続けているうちに少しずつ認められて、いつのまにかトップランナーといわれるようになっていました。今では地域や国も一緒になって幅広い取り組みができるようになりました。私は昔も今も「現場バカ」の子ども好き。誰でもウェルカム。うちに来てくれた子はどんな子でも応援していきます。これからも、はみ出した子もそうでない子も、どんな子も豊かに人生を歩める道づくりを変わらずやっていきたいと思っています。今は教え子と一緒に仕事をできることが心から楽しいし、ありがたいです。

羽生 偉大なる母の白井さんから、続ける価値も教えていただきました。ありがとうございました。

(取材・文/宮本恵理子 写真/佐伯慎亮)