大事なのは、誰かと信頼関係をつくるという経験をさせること

羽生 どう接するんですか?

白井 できるだけ、普通に接するんです。先入観や偏見を持たず、壁をつくらずに。例えば、ルールを破ってタバコを吸っちゃった子がいたとします。そういう子に対しても私は怒らないです。

羽生 怒らないんですか?

白井 怒らず、淡々と説明します。「タバコを吸おうが吸うまいが、私は君のことをイイヤツだと思っているし、信頼している。でも、みんなでつくったルールをこれからも破るようならば、残念ながらこの学校を去ってもらわなければならない。でも、そうなってほしくない。だから、どうしようか?」と。そんなやりとりをして大人になった子が今、うちのスタッフとして一緒に仕事をしてくれているんですけどね。後から聞いたら「何をしても普通に接してくれることに驚いたし、この人ニブイのかなとさえ思った(笑)」って言っていました。

羽生 「更生」という考え方ではないんですね?

白井 「更生」ではないですね。大事なのは、誰かと信頼関係をつくるという経験をさせることです。

羽生 “一般社会”になじめるように導くという教育ではない。

白井 「変わりなさい」とは言いません。「あなたはそのままでいい」と言っています。不思議なんですけどね、「そのままでいい」と伝えると、逆に変わるんですよ。それまでいじけていた子たちが頑張りだすんです。今とてもうれしいのは、うちのスクールに来てくれた子たちが、すごく素敵な大人に育ってくれていることです。「自分が助けてもらったから、今度はその経験を活かして人を助けたい」と教育や福祉の分野に進む子も多い。若い頃は無我夢中で迷いながらやっていましたけれど、自分の足で立って前向きに生きている子どもたちに再会できると「やってきたことは間違っていない」と明確な自信を持てます。生きたサンプルに助けられています。

羽生 何よりもの成果でいらっしゃいますよね。

白井 「よくなりたい」と思っていない子なんて一人もいないんです。悪ぶっていたとしても、カッコつけているだけで、ちゃんとできる自信がないだけなんです。だから、努力するのも怖い。

羽生 ご自身が母親になってからの心境の変化もありましたか?

白井 子どもは33歳、36歳、39歳で産んで、今は上から9歳、6歳、3歳になりました。やはり母になって実感できることは大きいですね。私がずっと仕事としてやってきたことが、わが子が通う学校でも起きているわけです。「子どもたちのためにやり続けていかなければ」と仕事の価値を再発見できています。