就職、転職、独立、そして、結婚、出産、育児……女性の人生はいくつものライフイベントによって彩られ、同時に多くの迷いも生まれるもの。様々な分野で活躍する女性から、「人生時計」をキーワードに人生の転機とその決断のポイント、充実したライフ&ワークのために大切にしている価値観を聞く連載企画。今回は、現役女子大生の立場から「安心して母親になれる社会」を目指す活動を行っている団体「manma」のインタビュー後編です。代表して話を伺ったのは、慶應義塾大学3年の新居日南恵さんです。※前編『manma 女子大生が結婚出産に前向きな社会に』もお読みください。

自分の家族以外の家族を客観的に見られたことがとてもよかった

日経DUAL編集部(以下、DUAL) ワーキングマザーの生活を間近で見ることが、「母になるための安心」につながるという実感はありますか?

新居日南恵さん(以下、敬称略) やってみて気づいたのは、私たちが求める「安心」のために必要なのはピカピカの制度を整えることではないということです。もちろん制度も大事なのですが、それだけでは不安は解決されません。むしろ「個人の生活としてのイメージ」が具体的に描けてこそ将来をポジティブにとらえられるのだと思いました。

 いわゆる一流大学の女子大生は「仕事も家庭もバリバリと両立できる輝く女性」になることを期待されていると思いますが、実際には「私にはそんなことはできない」と引いている子が多いんです。どんな女性でも「私にもできそう」と安心して将来を考えられる環境づくりが求められていると思います。

DUAL 参加した学生の皆さんからはどんな感想が寄せられていますか?

新居 家族を持つことや子どもを育てることに対して前向きに考えられるようになった、という感想がとても多いです。例えば、もともとバリバリのキャリア志向で「子どもはキャリアの足かせになるから産むつもりはない」と断言していた女子が、実際に子育て中のバリキャリ女性の家庭を訪問した後には「育児と仕事には相乗効果があることがわかった」と言っていたり。

 運営メンバーの斎藤優香子(慶應義塾大学2年)は「元々は専業主婦志向だったけれど、働いているママさんの生活を直接見てから判断することも必要かもと感じた」と言っていました。高岡春花(お茶の水女子大学4年)は「仕事と家庭を別々のものと切り離して考えていたけれど、一つの将来として考えられるようになった」そうです。

 まだ男子学生の参加は少ないんですが、参加した男子からは「家族は人生を一緒に作る“チーム”なんだと思った。結婚も悪くないかもと考えが変わった」と言っていました。

 全体的によく聞かれるのは「自分の家族以外の家族を客観的に見られたことがとてもよかった」という感想です。

「私の経験を次の世代に伝えられてよかった」

DUAL たしかに、社会に出る前に、他の家庭の様子をじっくり観察したり、子育ての実情について聞く機会ってなかなか少ないかもしれませんね。

新居 ほとんどないと思います。自分の親に「私をどうやって育てたの?」とわざわざ聞くことはしないし、聞いたとしても本音が返ってくるかどうかは分からない。友達の家庭に関しても、今は複雑な家庭も多いから仲良くしていても家族構成すら知らないってこともよくあるんです。

 自分が育った家庭以外の「家族のモデル」を知る体験って貴重だし、すごく有益だと思います。

DUAL 協力家庭となる先輩にとっても、若い世代と交流できる機会はいい刺激になりそうですね。

新居 とても好意的に受け止めてくださっています。「私の経験を次の世代に伝えられてよかった」とおっしゃる方が多いんです。例えば、エンジニアとして活躍されている女性は「私は20代でキャリアを優先して出産を先送りにした結果、不妊治療でとても苦労したの。早めに産んでから、キャリアを築く方法もある。出産にはリミットがあることを知ってほしい」とアドバイスをしてくださいました。

 そういった個人の体験に基づく情報は本来は下の世代にも共有されるべきだと思うのですが、家庭の中のシェアに留まっていたのではないでしょうか。だから、同じ問題が繰り返されてきて、ずっと「仕事と家庭の両立」が叫ばれてきたのではないかと思います。

 それに実際に見て感じるのは「子育てには体力が一番!」ということ。小さい子どもと走り回って遊ぶのは楽しいけれど、1日経験しただけでもクタクタになりました(笑)。私自身、「20代後半で結婚して、30歳くらいで出産できるといいかな」と思っていましたが、manmaの活動を通じてもう少し前倒しできるのが理想、と考えを改めました。