現在、音楽活動をしながら長男・礼夢くん(らいむくん・10歳・小学5年生)を育てている、SPEEDの今井絵理子さん。息子さんは生まれつき耳に障がいがあります。「耳が聞こえないのは、個性の一つにすぎません」と明るく語る今井さんの子育てに迫ります。前回記事「今井絵理子 私が音楽をやめようと思った瞬間」に続く連載・第4回では、今井さんが仕事を再開したときの素直な気持ちについて伺いました。

※ 今井絵理子氏は参院選に自民党から出馬することを発表しました。これを受けて選挙に向けての情報の中立性を保つため、本コラムの新規公開は一旦停止することと致します。ご了承ください。(2016年2月12日 日経DUAL編集部)

生後6カ月後に礼夢に教え始めた、口語法というコミュニケーション法

 礼夢が生後6カ月経ったころから、一緒に口話法の教室に通い始めました。口話法とは、相手の唇の動きを読んで話すというものです。「口話法を取得すれば、聴こえない子でも普通の学校に通えたり、自分の口で発音してコミュニケーションができるから」と、礼夢を診察してくれた加茂先生が教室を紹介してくれました。

 世の中には、手話ができる人がまだ多くありません。大人になってから、(耳が)聴こえる人とコミュニケーションするときのことを考えて、私達もその教室に通うことにしました。

 その教室の先生がまず教えてくれたのが、子どもに向かって大きく口を開け、ゆっくりゆっくり話す「口形(こうけい)」というもの。例えば、チューリップの絵を見せながら「おはな」と言ったり、うさぎの真似をしながら「ぴょんぴょん」と話しかけたり。こうやって絵と口形、つまり言葉を覚えさせていくんです。

 それからというもの、私の礼夢を相手にしたコミュニケーションは、“超オーバーアクション”になっていきました。ものの名前と言葉、その口形を覚えてもらおうと必死で、毎日口が痛くなるくらいでした(笑)。

 同時に、まだ歩けなかった礼夢を連れてあちこち行くようにもしました。雨のにおいや風、暑さや寒さ、ものの色や形、においや感触など、とにかくいろんなことを伝えたかったんです。そして、そのたびに「礼夢、これはお花だよー」「象さんだよー」と、何度も話しかけて。

 礼夢が1歳になると、先生が「らいむくーん」と話しかけると、礼夢は自分が呼ばれたことを理解して手を挙げることができるようになりました。

 その教室は保育園も経営していて、1週間に2~3回、聴こえる子と、聴こえない・聴こえにくい子達が一緒に過ごす日がありました。保育園の先生方は、壊れた補聴器を修理できるくらいの専門知識まで身に付けていて、とても信頼できました。何より、「聴こえる子も聴こえない子も一緒に」という方針は、当時の私が希望していた教育環境でもありました。

 そして、礼夢は2歳3カ月になったころ、一人で歩けるようになり、私はその日に、礼夢をその保育園に通わせて、仕事を再開することを決めました。

 本当は教室の先生に「仕事はしないでほしい」と言われていたんです。