街づくり「子どもは後回し」じゃいけない

―― 保育園に入れない、入れても狭い・園庭がないといった現状の、根本的な解決策は何でしょうか? 例えば、社会学者の古市憲寿さんは「保育園の義務教育化」を提唱しています。

普光院 保育園義務教育化はいいアイデアだと思います。究極的な解決法は、子どもの優先順位をあげるということですね。千代田区や港区などは、大人のためのアメニティーはすごく充実しているのです。その空間の一部でも子どもに分けてあげてほしいと思います。

 日本って、子どものことをあまり考えてこなかったんですよね。男社会で、“女・子ども”は“わたくしごと”として後回しにされてきました。でも今後は、子どもは後回しじゃいけない、という考えに変わっていかないと。今、政府は3歳未満児の44%が保育園に行ける状態を目指していますが、現在、待機児童が多い地区では30%を下回ります。全国で最も共働き率が低いのは神奈川県で、神奈川は専業主婦向けの街作りになっている所が多い。女性は家庭に入るもの、という固定観念がいまだにあることも、保育園整備が遅れる原因の一つだと思います。

―― 毎年、自治体に対して調査を続けてこられました。今後、各自治体にはどんなことを期待しますか?

普光院 自治体には、もっと実情をオープンにしてほしいですね。待機児童数を数字上でむりやりゼロにするのではなく、子どものためにちゃんとした施設で、どれくらいカバーできているか、ということを保護者に知らせてほしいです。きちんとした環境がないのに、「子育てしやすい街」などと言ってはいけません。みんな、そういう甘い言葉に吸い寄せられて引っ越してくるわけですから。

 都市開発においても、お金優先で土地を取り合った結果、子どもの居場所がなくなるなんてことがないようにしてほしいです。デベロッパーが建築の申請をするときに、「ここは保育園にして」と自治体が旗を振らないと。大切にされている、という感覚が、子どもの自尊心を育てます。ただやみくもに「待機児童数ゼロ」を目指すのではなく、子どもの将来のことを考えた街作り、環境整備をお願いしたいなと思います。

 「保育園を考える親の会」による調査冊子「100都市 保育力充実度チェック」の2015年度版が、発行されました。首都圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)の主要市区、および政令指定都市の保育サービスの状況がまとめられています。詳細は「保育園を考える親の会」ホームページをご覧ください。

(取材・文/星野ハイジ 写真/鈴木愛子)

山下真美

普光院亜紀

出版社在職中に2回の育児休暇を取り2人の子どもを保育園に預けて働く。1993年より、「保育園を考える親の会」代表。保育、仕事と子育ての両立の分野の執筆・講演活動を行うほか、国や自治体の保育・子ども施策に関わる委員会等の委員も務めている。著書に『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』『共働き子育て入門 』(ともに集英社)、『はじめての保育園』(保育園を考える親の会編、主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(保育園を考える親の会編、実務教育出版)ほか多数。