共働きアメリカ人女性に隠れた専業主婦願望あり?

 アメリカでは、「女性が妊娠したから退職」という考えは一般的ではなく、退職したとしても子育てが落ち着くまでの休職であり、数年後の仕事復帰が前提。共働き世帯は特に女性のほうに「夫婦は平等」という意識が強く、家事と同様に子育ても分担が当たり前、という考えだ。女性のほうが稼ぎが多ければ、男性が育休を取ったり、子育てのために休職したりすることも今は珍しくない。

 なぜ、産休も育休もろくにない、保育料も高いアメリカで共働き世帯が減らないのか?

 もちろん、レイオフ(一時解雇)におびえながら働かざるを得ないアメリカの経済情勢やキャリアを出産でストップさせたくないという仕事への情熱もあるだろう。しかし、本質的な理由は、共働きこそが現在のアメリカでのスタンダードだからではないだろうか。あえて仕事をやめて子育てを選ぶほうこそ「なぜ?」と疑問符がつき、強い意思や何かしらの理由が必要とされるような風潮がある。ましてや子どももいないのに専業主婦? という具合だ。実際、出産を機にフルタイムの仕事をやめてフリーランスへ転身した筆者も、その空気はひしひしと感じているところである。

 日本でも発売された書籍『ハウスワイフ2.0』では、一流大学を出て築いたキャリアを捨て、家族との暮らしを優先するワーク・スタイルを選ぶ女性がアメリカで増えていると、物議をかもした。この著者もまた、こうした“カリスマ主婦”達をキャリアが思い通りに描けない現実から逃げているだけと疑問視している。

 実際、減る一方だった専業主婦の割合が2012年に上昇に転じ、2014年の調査では回答者の60%が「子どものためには親は家で一緒に過ごすほうがよい」としている統計もある。子どもの未就学時代だけとはいえ、よっぽどの高給取りでなければ、デイケアやベビーシッターもろもろにかかる費用を差し引くと手取り額があるかないかの世界。同時に2人以上の未就学児となると、働き続けるためには逆にお金がかかることを覚悟しなくてはならない。経済的に許せば、本音は子育てに集中したいという女性も多そうだ。

 今年、大統領選挙を控えるアメリカ。国民女性の隠れた専業主婦願望を満たすような経済政策や社会保障制度を打ち出すことが、実は子育て世代票獲得への近道となるのかもしれない。

平等の意識が高いアメリカ人カップルは、結婚しても共働きが基本
平等の意識が高いアメリカ人カップルは、結婚しても共働きが基本

(取材・文/ハントシンガー典子 海外書き人クラブ