近年、子育て支援策がますます充実する日本からすれば驚くことかもしれませんが、世界で有給の産休・育休制度が最も保障されていない国のうちの一つが、アメリカ。一方で、8割もの女性が出産後も仕事を続けているという、共働き先進国でもあります。今回はワシントン州シアトルから、アメリカでの職場復帰にまつわる子育て事情をお届けします。

アメリカでは産休も育休も勤め先次第

 産休・育休制度がないアメリカでも、Family and Medical Leave Act(家族および医療休暇法)という法律により、雇用期間や労働時間などの諸条件を満たせば、出産前後に12週間の休暇を取得できる権利が定められている。しかし、従業員50人以上の企業にしか適用されず休暇は有給ではなく無給、同職復帰の保証もないという心もとない代物だ。州によっても違いはあるが、結局は勤め先が産休・育休を認めるか、認めないかにかかっている。

 昨年の夏、アメリカ西海岸を中心としたIT業界でちょっとした異変が起きた。ビデオ・ストリーミング大手のネットフリックスや、世界有数のソフトウェア会社であるマイクロソフト、アドビなどが、一斉に有給の育休制度を打ち出したからだ。もともと、グーグルやフェイスブックなど手厚い子育て支援を行う企業が目立っていたIT業界、これらの企業によって時代の潮流が変わるのかもしれない。

 シアトルのあるキング郡、そしてシアトル市は今年に入って職員への有給育休提供が決定しており、地元のIT企業に追随するかのように、元マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏らにより設立された世界最大の慈善基金団体、ビル&メリンダ・ゲイツ財団も子どもの誕生もしくは養子を迎えてから52週間の有給育休を発表した。しかし、明るいニュースが続くシアトルでさえ、こうした恩恵にあずかるのは公務員や有名企業に勤務する人など、共働き世帯のほんの一握りにすぎない。

世界長者番付1位の大富豪一家が創設したビル&メリンダ・ゲイツ財団
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