法人を運営する経営者として身をもって感じるのは、「キャリアを継続する」という価値が雇用のマーケットにおいていかに重要かということ。正直、ハイパーキャリア出身で5年ブランクがある人よりも、細々とでも地道に仕事を続けてきた人のほうがずっと安心感があるのです。すぐに使える仕事感覚が維持されているからです。

 例えば5年前の2010年を思い出してみてください。facebookを使っている人はほとんどいなかったですし、ましてそこからビジネスチャンスが広がるようなことはなかったですよね? 特に今のビジネス環境は刻一刻と変わるものなので、「継続して現場にいる」ということがとても大事だと実感しています。

 極端かもしれませんが、「保育料に給料の全額を投じてでも、就業継続したほうがいい」というのが僕の考えです。数年は家計が大変でも、長期的には大きな収入をもたらすはずですから。働く女性がお子さんを授かったら、「辞めない」という選択をするのが経済的に合理的であり、ご本人が希望するキャリアを発展させていくためにも不可欠な判断ではないかと思います。

妻の仕事継続を可能にするのが夫のミッション

 とはいえ、特に初めての子育ての場合は「やっていけるかどうか分からない」とキャリア中断を考える女性はやはり少なくありません。ここで男の出番です!

 キャリアの話にも通じますが、共働きの強みはダブルインカムであることです。DUAL世帯のマネー戦略を考える上で、まず大事にしたいのが、この“強み”を手放さないという点です。妻が仕事を継続できるように全力を尽くすのが夫のミッションでしょう。

 経験上、妊娠中や産後数カ月間の女性のメンタルは非常に不安定であると理解しています。子どもが生まれた喜びを感じながらも、常に不安で気持ちが落ちていく。「育休復帰しようと思ってたけど、やっぱり私、できそうもない。仕事、辞めようかな……」なんて虚ろな目でつぶやく妻。その言葉をすぐに真に受けて「じゃあ、辞めたら」なんて言ってはいけません。その言葉は“産後うつ”によって発せられているのではないかと、まず疑いましょう。

 できればぜひ夫も育児休暇制度を利用して、妻のサポートに集中できる時間を取ったほうがいい。僕自身も2ヵ月ほど取りましたが、あのとき思い切らなければわが家はどうなっていたのかと思うほどです。

 産後の最もしんどい時期に夫のサポートがあることで、妻は負担が軽減されて気持ちも安定していきます。夫のサポートなしで妻が潰れて片働きになってしまったら……そのときの損失の方が甚大です。「妻への愛のために」だけでなく「中長期マネー戦略のために」とクールに考えた上での結論として、夫の育休取得は合理的選択であると僕は思います。

 「夫が育休を取ると収入が減って生活が成り立たなくなる」「仕事を休むと周囲の目線が気になるし、カンが戻らなくなる」というイイワケが通用したのも今は昔。実質、給料の8割は支給されますし、月80時間以内なら働くことができる“半育休”の制度も始まりました。こういう流れがきているときに制度はバンバン使っていかないと、世の中は変わりません

 DUAL世帯のマネー戦略の最大の要は「夫婦共に働き続けること」。そのために、目の前の負担に惑わされず、中長期の視点を持ったアクションを意識していくことが大事なのだと思います。

(文/宮本恵理子 撮影/鈴木愛子)