「比べる気持ち」がきっかけで落ち込みや怒りが膨らむことも

 どんな感情も、自分を守ろうとして発動している、という話をこの連載では繰り返しお伝えしてきました。誰かと比べてしまうという気持ちもまた、「次の行動を起こさせるため」に発動しています。比較した結果、自分が頑張ったパフォーマンスに対して取り分が少ないのではないか、自分の立場は弱いのではないか、そう思うからこそ、もっと頑張らないといけない、何らかの対処をしなくてはならない、と思える。比較する感情は、努力し、行動を起こすためのモチベーションともいえます。

 しかし、現代は情報過多です。実生活だけでなく、日々接するSNSなどによって、「とてもうまくいっている身近な友人」の姿を目にして「よし、私も頑張るぞ!」というモチベーションにつなげられればいいのですが、忙しくて疲れている人ほど、「それに比べて自分はダメだ……」と自信喪失してしまうことが多いのです。

 例えば仲のいい友人が、週末に子どもをあちこちに連れて楽しんでいる様子をFacebookで見ると、「それに比べて自分は疲れ果てていて、どこにも子どもを連れていってあげられていない」と落ち込んでしまったり。人と比べて落ち込むことを繰り返すことによるデメリットは、このような状況になると人は自分を責めたくないあまりに、周囲を責めるようになる、ということです。

  私がうまくいかないのは、余計な仕事を押しつけてくる上司のせい
  私が疲れ果てているのは、育児に非協力的な夫のせい
  もっと子どもが優秀な子なら、こんなに育児がしんどくないのでは……

 こんなふうに、身近な存在を対象に怒りを募らせ、自分の置かれた環境のふびんさを並べたり、誰かを妬む気持ちが高まってきます。このような「比較グセ」「妬みグセ」がつくと、今の自分の幸せを感じる能力が低下してきます。そして、目標を見失い、毎日がもっとつらい日々になってしまうのです。

 また、女性の場合、どうしても「子育てや家事は女性の仕事」「子育てがうまくいかないのは、母親に責任がある」という価値観を抱いていることが多い。また、おなかの中で子どもを育ててきたからこそ、出産後もわが子を自分の分身のように感じることが多く、わが子の失敗は自分の失敗、というふうにダイレクトにダメージを受けやすいという特徴もあります。

 歴史的に、女性は集団の中で協力し合わないと生きてこられなかったので、本能的に、自分の身の回り、左右の人達の動向に敏感になるという性質もあります。それに比べて男性は権力闘争によって生き残ってきたので、上下関係には敏感でも、女性のように「周囲が気になる」という価値観をあまり理解できません。

 女性が「あの人は……」とか「あの子のおうちは……」と比較してグチを言っても、男性のほうは「そんなことどうして気にするの?」と反応が薄いのは、そういった男女差も影響しているのです。