映画にはない楽しみがある

 観終わった後、長男が「このお芝居がもし震災の地で上演されたら、被災した人と一緒に観られるだろうか」とぽつりと言った。それをきっかけに震災のことや認知症のことなど、色々話した。

 「観た後に、俺達がそういう話をするってことだけでも、このお芝居はすごいんじゃないかな」と、実はよく分かんなかったという次男。芝居の感想は一人ひとり違って当たり前だ。何かを分かる必要もない。

 風煉ダンスのお芝居はスペクタクル感もたっぷり。舞台美術もいつもながら見ものだった。音楽の生演奏が舞台を盛り上げていた。月明かりは計算できない照明効果があったし、秋の虫の音もよかったよ、口々に言う。そうだよ、初めての野外劇鑑賞だもの、単純に楽しめればいいんだよ、と僕は思った。

 映画好きの息子達だが、生身の役者さんが体を張って、その場限りの演技をし、それを五感で楽しむ、映画とは違う楽しみを存分に味わったことは間違いない。

主演の飯田孝男さん。こういう渋い役者さんに会えるのも小劇場の魅力だ
主演の飯田孝男さん。こういう渋い役者さんに会えるのも小劇場の魅力だ

野外劇ならではのスケールと美しさ。演劇にはこんな夢のような瞬間がある
野外劇ならではのスケールと美しさ。演劇にはこんな夢のような瞬間がある

風煉ダンス
1990年、笠原真志と林周一により旗揚げ。毎回、あっと驚く美術と壮大でバカバカしい物語で観客を風煉の渦に巻き込む。来年も野外劇『スカラベ』を計画中。最新情報はfacebookをチェック。野外劇『泥リア』(終了)の公演情報はこちら

(文/小栗雅裕 撮影/小野さやか)