寝る間も惜しんで勉強を続けた母を見て
壇 私の家で子どもは「連れ出し制」だったので、「今日はお父さんが子どもと一緒に出かける日」と決まっている感じで、トリプルで出かけるということはなかったですね。第一、皆そろってお出かけというのは、ちょっと気合いが入り過ぎてそわそわしてしまいます。落ち着かないです。
―― 遊びに行きたいとせがまない、家のお手伝いも率先してする…子どものころから成熟している印象ですね。ご両親から強く叱られたようなことは?
壇 小学3年生のころ、母が使っていたハンドクリームを、母が寝る前に布団の上にこぼしたときはものすごく怒られました。少し背伸びをしたくて、母のまねをして塗ってみたかったんです。そうしたらポトッと落としてしまって。「明日も早いのに、あんた、何やってくれんのよ!」って雷が落ちました。
後々聞いたら、主任になる試験を受けている最中だったらしく、母も必死だったんでしょうね。母は父親を若いころに亡くしたこともあって、大学に行けなかった。出世して、キャリアを築きたいっていう気持ちが強かったと思います。それで、主任、係長、園長と昇格試験をよく受けていたので、当時はかなり忙しかったのでしょう。夜もずっと明かりをつけて、職場の書類を作ったり、試験勉強をしたりしていました。
―― そういう仕事に励むお母さんの姿を見て、子ども心にすごいな、と尊敬しました?
壇 お母さん、字がちっちゃいなって思いました(笑)。
書類がぎっしりと詰まった母のトートバッグは記憶に残っています。母は、いつも普通のかばんとその重いトートバッグの2個持ちでした。子どものころは実感がありませんでしたが、自分が会社勤めをするようになってからは、母がどれだけ仕事のことを常に考えていたのか、色々なプレッシャーとか周囲の期待を背負いながら一生懸命働いていたのかが分かるようになりました。
――続く「下」編では、母娘の恋愛観の違いや単身赴任で家を留守がちだった父との関係、そして壇蜜さん自身のキャリア観を伺います。
(文/高橋京子 撮影/坂齋清 編集協力/Integra Software Services)