クリエーターならではの葛藤も

 4人とも育児・仕事を行うため仕事時間の制約がある分、タイムマネジメントスキルが磨かれ、仕事もスピードや効率も高まった。しかしその反面、電通のクリエーティブ職にいる立場として「これでいいのか」という葛藤を感じることもあるという。

僕達の広告制作の仕事は、仕事を効率化・合理化することが正しい成果につながるとは限らないんです。仕事を効率化しても、アウトプットしたもののクオリティーが上がっているのか落ちているのか、比較のしようがないですから。あと1時間、ダラダラと考えていればよりよいアイデアが浮かんだかもしれないし、逆に、子どもに付き合って普通なら見ないようなアニメ映画を見たことが功を奏したかもしれないし」(森口さん)

「企画量が企画の質を生む、考えた時間が長いだけ力になる、と仕事で教えられてきましたからね。考える量が減っていることに対しては、悩んだ時期もありました」(大山さん)

 ですが大山さんは「でも、あるときからそれは考えないようにしています」とも語る。「『子どもがいなければもっとできたのに』なんて、少しでも思ってしまうのは不幸なこと。与えられた時間の中で最大限やろう、と割り切りました

 森口さんは「これはゲームのようなもの、と考えるしかないですね」とも話す。「ゲームって、レベルが上がるにつれて制限時間が短くなるじゃないですか。22歳のころには100時間与えられていたけど、32歳では半分の時間で同じクオリティーを保つことが求められる、そういうものなんだと。ずっとやってきたんだから、それくらいはできないとね、と」

森口哲平さん(左)と越澤太郎さん(右)
森口哲平さん(左)と越澤太郎さん(右)

育児と仕事の両立は、決してスマートではない

 4人のうち、最もシビアな共働き環境なのが森口さんだ。子どもは2歳と5歳の2人。妻は高校教諭で、家を出れば生徒達への責任を負っているため、時間の融通が利きにくい。「妻の仕事の方が自分の仕事より、無くなったら困る社会的意義の強いもの」。そんなふうに妻の仕事を考える森口さんは、子どもの急病時に仕事を休むなどの対応も行っている。

 森口さんは「ファッション誌に登場する理想的な父親のように、スマートな感じでは全くないですよ。正直、余裕はない」という。

「もちろん、子どもといるのは楽しいし、探究心や好奇心も満たされています。でも、仕事と育児の両立ができているとは今はまだ言い難いですね。むしろ破綻しているといっていい。子どもが熱を出したら、重要な打ち合わせをドタキャンしてしまうこともありますが、それを覚悟でやってますから。育児を一番大切なこととして中心に置きつつ、それ以外の時間でいかに楽しく仕事して成果を上げるか、それが今の課題となっています」(森口さん)

 森口さんは、仕事の意識についても、次のように語ってくれた。「今より若かった昔は、チームの中でイニシアチブを握るにはいろんなことができたほうがいいし、いろんなことに意見できたほうがいいというスタンスでした。けれど今は、全試合・全イニングにフル出場するのではなく、週1回だけの登板でも確実に勝つ、という仕事の意識に変わっています。あれもこれも手を出すのではなく、自分に求められているのがどのポイントで、自分が何をすればチームに貢献できるかということを、すごく考えるようになりました。自分がやらなければならないことに白黒つける。その感度は高まっているように思います」

 この4人に限らず、世の男性にとっても、子どもができて育児・家事に携わることになるとワークスタイルは変えざるを得ない。だがそれを次のステップとして肯定的に取り組むことが、仕事でも新たな成長につながるのではないだろうか。

(文/青木典子、編集部 写真/鈴木愛子)